文章を作る人々の根本用意(2)_小川未明童話集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29 点击:3334
母鳥は、うつぎの木の枝から、枝を飛んで、小さな胸のうらみにこらえかねていました。
「なぜ、お母さん、私たちも、人間の手のとどかない、大空高く舞い上がって鳴かないのです?」と、子供たちが、たずねると、
「それは、勇気のある鳥のすることですか。」と、母鳥は、しかるごとくいったので、子供たちは、くびをすくめて、だまってしまいました。
子供たちは、毎日、あちらの高いかしの木の方をながめていました。
「あすこまで、どれほどあるだろう?」
それは、たいへんに遠いようにも思われました。あるときは、その木のいただきの空に、星がぴかぴかと輝いて見えました。また、あるときは、あちらの空に電光がして、雷が鳴り、しばらくすると、黒い雲が野原の上に垂れ下がって、雨風が襲い、あの木をもみにもんだのです。すると枝についている、すべての葉が白い裏をかえして、ふるいたつかと見る間に、雲の中にかくれてしまったこともあります。そのとき、
「あの木は、どうかならなかったろうか。」と、心配するほどのこともなく、また、たちまち、けろりと晴れた、水色の空の下に、なつかしい木は、こんもりとして、昔のままの姿で立っていたのでした。
夏も、やがて、逝こうとする日のことでした。
「さあ、みんな飛んでごらん。あの野原の高い木のところまで!」と、母鳥は、三羽の子供たちに自由に飛ぶことを許したのでした。
いまは、一人まえとなった、三羽のほおじろが、野原の高い木立を目がけて飛び立ったのであります。そして、そのとき、村を見、また、町を見、あちらの地平線から白くのぞいた、海をはじめて見たのであります。
三羽の子供たちは、日の暮れるのも忘れて、あたりを飛びまわって、待ちに待った、自分たちの日がついにきたのを喜んだのでありました。そして、お母さんを思い出して、やぶの古巣に帰ってみると、どこにも、お母さんの姿は見えませんでした。
「おまえたちが、ひとりだちができるようになったときに、私は、お父さんの後を追ってゆくから……。」と、日ごろいった、お母さんの言葉が、ひとりでに思い出されたのです。そのとき、野原の上の空には赤い雲が火のように飛んで、その下には、黒く、かしの木が、巨人のようにそびえて見えました。
分享到: