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ペスをさがしに(2)_小川未明童話集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334
 

ペスをさがしに

小川未明


土曜日どようびばんでありました。
にいさんも、おねえさんも、おかあさんも、食卓ちゃぶだいのまわりで、いろいろのおはなしをして、わらっていらしたときに、いちばんちいさいまさちゃんが、
「ぼく、きょうペスをたよ。」と、ふいに、いいました。
すると、みんなは、一におはなしをやめて、まさちゃんのかおました。
まさちゃん、ほんとうかい。」と、しょうちゃんがさけびました。
「ほんとうに、たよ。」と、まさちゃんは、まじめくさってこたえました。
「まあ、げてきたんでしょうか?」と、ねえさんは、おどろいたかおつきをなさいました。
「ペスなら、げてきたんでしょう。よくげてこられたものね。」と、おかあさんは感心かんしんなさいました。
「ペスでない、きっとほかのいぬだよ。まさちゃんは、なにをたのかわかりゃしない。」と、いちばんうえたっちゃんが、いいますと、
「うそかい、ぼく、ほんとうに、たんだから。」と、まさちゃんは、をまるくしました。
みんなが、そううたがうのも、無理むりはありません。むかしから、犬殺いぬころしにつれられていって、かえってきたいぬは、めったにないからです。
「おかあさん、ほんとうでしょうか。ペスだったら、いいけど。」と、おねえさんは、いいました。
「ペスだったら、うちで、ってやろうね。」と、しょうちゃんがいいました。
印刷屋いんさつやいぬじゃないか。」
「だって、あすこでは、もうかまわないのだもの、どこのうちのいぬでもないだろう。」
にいさんたちは、こののち、ペスをどうしてかばってやったらいいかと議論ぎろんをしました。
「まだ、ほんとうに、ペスかどうか、わかりゃしないじゃないの。」と、おねえさんが、いいますと、おかあさんは、ぼんやりとして、おにいさんたちのはなしをきいている、まさちゃんをごらんになって、
「もう、まさちゃんは、ねむいんでしょう。きっとペスのかえってきた、ゆめでもおもして、いったのでしょう。」と、わらいながら、おっしゃいました。
「あるいは、そんなことかもしれん。」と、いままでペスの今後こんご相談そうだんをしていた、たっちゃんとしょうちゃんは、そのほうのはなし中止ちゅうしして、もっと、くわしいことをるために、
まさちゃん、どこで、ペスをたんだい。」と、まずしょうちゃんは、たずねました。
はしのところで、あそんでいて、たんだよ。」
まさちゃん、ひとりしか、ペスをなかった?」と、しょうちゃんは、さらに、ききました。
けんちゃんも、とくちゃんも、みんなたから……。」と、まさちゃんは、うたがわれるのが、不平ふへいでたまらなかったのです。
「じゃ、明日あしたとくちゃんなんかにきいてみるよ。うそなんかいったら、承知しょうちしないから。」と、しょうちゃんが、いいますと、
「なにも、おこることはないでしょう。」と、おねえさんが、しょうちゃんをにらみました。
「だって、うそをつくことは、わるいことじゃないか。」
「うそをつこうとおもっていったのでない。まちがいということは、あるもんでしょう。」と、おねえさんが、おいいなさると、
「まちがいじゃない、ほんとうに、ペスだったよ。」と、まさちゃんは、あたまって、がんばりました。
かあさんも、おねえさんも、まさちゃんの、いつにない真剣しんけんなようすをて、おかしそうに、おわらいになりました。
「なぜ、まさちゃんは、ペスをばなかったのだい。」と、いちばん年上としうえたっちゃんが、こんどは、たずねました。
「ぼく、ペス、ペスとんだよ。」
「そうしたら。」
「こっちを、じっとたよ。」
んで、こなかったかい?」
「いくら、んでも、こなかった。そして、とっとと、あっちへいってしまった。」と、まさちゃんがこたえました。
「どっちのほうへ、いってしまったい。」と、だまってきいていた、しょうちゃんが、ききました。
はらっぱのほうへ、かわについて、とっとと、いってしまったよ。あっちの、あかそらなかへ、はいっていってしまったよ。」
まさちゃんは、さむい、木枯こがらしのきそうな、晩方ばんがたの、なんとなく、物悲ものかなしい、西空にしぞらの、夕焼ゆうやけのいろを、えがいたのです。
「どっちから、ペスが、あるいてきたか、っている?」としょうちゃんは、まさちゃんに、たずねました。
市場いちばほうから、あるいてきた。」
「そのとき、ほかのは、ペス、ペス、とばなかったの。」とたっちゃんがききました。
んだとも、けんちゃんも、とくちゃんも、んだけれど、ペスは、かんでいってしまったよ。」
かあさんも、おねえさんも、まさちゃんの、そういうのをきくと、はたしてペスがかえってきたのかしらんとかんがえるようになりました。そして、子供こどもたちのはなしを、いまは、じっときいていられたのであります。
「おかしいね、あんなに、いつも、はしってきてびつくのに、んでも、こないのは……。」と、たっちゃんが、あたまをかしげました。
「おかしいね。やはり、ペスでは、ないんだろう。」と、しょうちゃんがいいました。
「ペスだよ。」
「そんなら、どうして、んでもこなかったのだい、まさちゃんにわかる?」と、しょうちゃんが、いいました。まさちゃんはだまっていました。おかあさんも、おねえさんもしばらく、まさちゃんのかおていられました。
まさちゃんは、あたまなかでは、わかっているが、どう言葉ことばに、あらわしたらいいかと、まどっているようすでした。が、どもりながら、
「また、人間にんげんが、だますとおもったから、こなかったのだろう……。」と、いいました。
「だますから?」と、しょうちゃんが、ききかえすと、
まさちゃんのいうことは、よくわかるじゃないの。いつも、あんなに、かわいがっていて、見殺みごろしにしたからというのだよ。」と、おねえさんは、に、なみだがためていらっしゃいました。
「ほんとうに、そうだな。すぐにわかったら、もらいにいってやればいいに、印刷屋いんさつやでも、うちでも、まただれも、犬殺いぬころしにつれられていったぎり、もらいにいってやらなかったのはわるいとおもう。」と、たっちゃんも、同意どういしました。

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