政ちゃんと赤いりんご(2)_小川未明童話集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29 点击:3334
あるときは、百
姓らが
焚いている
野火が、
真紅な
花の
風になびいている
姿となって
見えたりして、その
中に
飛び
込んで、
長い
旅をつづけた
末に、むなしく
死んでしまった
仲間もあります。また、
街に
輝いた
火影に、つい
誘惑されて、りんごの
花の
警めも
忘れて、
飛んでいくと、そこにはいい
音楽が
聞こえたり、
唄の
声がしたり、ほかに
美しい
塔や、
噴水や
銅像などがあったり、また
花園さえあったりしたので、うかうかと
時間を
過ごしてしまって、みんなから
離れてしまったものもあります。
しかし、
根気強い
蛾の
群れは、
翌日も、そのまた
翌日も、
旅をつづけました。そして、
広い
野原を
横切り、あるときは、
山の
頂を
越えて、ついに、
夏のはじめのころには、はるかに、
青い、
青い、
北海の
見える
地方へ
達したのでした。
「とうとう
海へきた。」
「
私たちのゆく、
美しい
島は、どこだろうか?」と、
蛾たちは、
喜んで
叫びました。
「この
海を
越えて、
島に
達することは
容易のことでない。
疲れを
休めて、
穏やかな、いい
天気のつづく
日を
待とうではないか。」
「それがいい。
雪の
光る、
高い
山のふもとには、
高山植物の
咲く
野原があり、みごとな
深林があるという
話だから、そこまでいこう。そして、いい
日を
待つことにしよう。」
みんなは、この
最後の
説に
従いました。それから、
雪の
光る、
高い
山を
探ねて、そのふもとへといったのであります。
その
高い
山は、すぐにわかりました。ふもとへいってみると、
美しく
晴れた
空の
下に、
高山植物が、
盛りと
咲いていました。
白い
蛾の
群れは、
思い
思いに、
自分の
好きな
花を
探して
飛びまわったのでありました。
しらかばや、はんや、
落葉松の
林の
中には、くびの
赤い、
小形のつばめがたくさんきて
鳴いていました。その
中の一
羽のつばめが、
高山植物の
咲いている
野原へ
降りたときに、
火山岩の
上に
止まって、
蛾と
話をしました。
「
私たちも、その
島へ
見物にゆくのですよ。それでここへきて、
天気を
見はからっているのです。」と、つばめはいいました。
蛾は、いまさら、その
島が、それほど、
美しい、
有名なところであるのを
知りました。
「
私たちは、
遠い、
南の
深林から
旅をして、
幾日も、
幾日もかかって、ここまでやってきたのです。いっしょに
出発しながら、
長い
日の
間には、おくれたり、また
災難にかかって
死んだりした
仲間もありました。しかし、これから、
海を
渡ることが
困難だと
思っています。」と、
蛾はいいました。
つばめは、
体をつぼめるようにして、
高原の
上を
吹いてくる、
風の
方に
向かっていましたが、
「
私たちも、やはり、
南からきたものです。その
島にいって
見物がすんだら、あまり
寒くならないうちに、
故郷へ
旅立ちしなければなりません……。」と、
答えたのです。
蛾たちは、このつばめの
言葉を
聞いて
驚きました。
いま、
日の
光は
強く、
空は、
輝いているけれど、やがて、
自分たちにとって
怖ろしい
秋がやってくることを、つばめの
言葉によって
悟られたからでした。
「
私たちは、二
度と
故郷へは
帰ることはできまい。せめて、
早く、その
島に
着いて、
死ぬまで
楽しく
送りたいものだ。」と、
蛾は、ため
息をつきました。
「そんなに
歎いたものでない。まだ
自分たちは
生まれてから、いままで
生きてきたほど、この
先も
生きられるのだから、
力を
落とすことはない。」と、またほかの
蛾がいいました。
「そんなことは、
考えないほうがいい。」
蛾たちの
話を、だまって
聞いていたつばめは、
「ほんとうに、そうですとも。あなたたちの一
日は、
私たちの
半年よりも、もっとおもしろく、
愉快に、
暮らしがいがあるのですから、そんなことを
心配することはありません。まだ、あなたたちは、お
若いのです……。」といいました。
「それで、あなたがたは、いつ、その
島へお
立ちになりますか。」と、
蛾は、つばめにたずねた。
つばめは
頭をかしげて、
空を
見ながら、
「それは、まだわかりませんが、きまったら、お
知らせいたしましょう。」と
答えた。
「どうぞ、お
知らせください。
私たちも、ごいっしょに
立つようになるかもしれませんから。」と、
蛾は
頼みました。
はじめて、
海の
上を
渡る
蛾には、なんとなく
心細く
思われたからです。そして、つばめたちが、いいという
日は、
自分たちにも、いい
日にちがいないと
考えたからでした。
二、三
日後の
晩方でした。
先日、
話をしたつばめが、
蛾たちのいるところへきて、
明日、
自分たちは、
島に
向かって
出発することを
知らせました。
「また、
島でお
目にかかれるかもしれません。どうぞ、ご
機嫌よう……。」と、つばめは、
暇ごいをして、
彼らの
仲間のいる
林の
方へ
飛んでいきました。
蛾たちは、
自分らも
明日立つかどうかということについて、
相談しました。このとき、かわいらしい
淡紅色の
高山植物の
花は
顔をこちらに
向けて、
「
明日は、
風になりますよ。」と、
注意したのです。その
言葉は、あまり
蛾たちには
顧みられなかった。
高い
山脈の
頂は、
明るく
雲切れがして、
日は
暮れてしまいました。一
夜は
無事に
過ぎて、
翌朝になると、
空はいつものごとく
青く
晴れていました。このとき、
蛾たちは、
空高くつばめの
群れが、
林から
旅立って、
北を
指して
飛んでゆく
姿をながめたのでした。
「
俺たちもいこう!」
蛾の
群れは、つばめたちの
後を
追って、
旅立ったのでありました。
その
後で、
高山植物は、しきりに
頭を
動かしていた。はたして、
昼ごろから、
夜にかけて、
強い
南から
吹く
嵐と
変わってしまった。
つばめらは、
予期したごとく、
嵐を
脊に
負って、
安々と
島に
着いたけれど、
蛾たちは、ひとたまりもなく、
海の
中へ
吹き
落とされて
死んでしまったのであります。
――一九二六・三――
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