町の真理
小川未明
せみ
B坊が、だれかにいじめられて、
路の
上で
泣いていました。
「どうしたの?」と、わけをきくと、こうなのであります。
A坊と、
B坊は、いっしょに
遊んでいたのです。すると、みんみんぜみが
飛んできて、
頭の
上の
枝に
止まりました。
二人は、
家に
走っていって、もち
棒を
持ってこようとしました。すると、
日ごろから、
強い、わんぱく
子の
A坊が、
「これは、
僕のせみだから
逃がしちゃいけないよ。
番をしていておくれ。」と、
命ずるように、
B坊に
向かっていいました。
清水良雄・
絵[#「
清水良雄・
絵」はキャプション]
気の
弱い
B坊は、たとえ
内心では、それを
無理と
感じても、だまって、うなずくよりほかはなかったのです。
「どうか、
Aちゃんのくるまで、みんみんぜみが、
逃げてくれなければいいが……。」と、
B坊は、
心配していました。なぜなら、もし、せみが、
逃げたら、きっと
A坊は、
自分のせいにすると
思ったから。
B坊は、
上を
向いて、せみを
見守りながら、
身動きもせず、じっとしていました。せみは、つづけて、ミン、ミン、ミン――と
鳴きました。そして、
鳴きやむと、
思い
出したように、
遠方を
目がけて、
飛び
去ってしまいました。うらめしそうに、
B坊は、しばらく、
飛び
去ってしまったせみの
行方を
見守っていました。
そのとき、もち
棒を
持った
A坊が、
息をきらしながら、あちらから
駆けてきました。
「
Bちゃん、せみはいる?」と、
遠くから、こちらを
見て
叫びました。
B坊は、なんとなく、すまなそうな
顔つきをして、
頭をふり、
「
逃げてしまった。」と、
答えました。
「うそだ!
君が、
逃がしたのだろう……。」と、
A坊は、すぐ、そばにくると
難題をいいかけました。
「
僕が、
逃がしたのではないよ。」と、
B坊は、あまりの
A坊の
邪推に、
不平を
抱きました。
「
君は、
番をしているといったじゃないか?」
B坊は、たしかにそういったから、だまっていました。
「
君は、
番をしているといったろう。このうそつき!」
こういって、
A坊は、
B坊をなぐったのです。
――
話はこういうのでした。さあ、どちらに
真理がありましょう?