町の真理(2)_小川未明童話集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29 点击:3334
貧乏人
達者のうちは、せっせと
働いてやっとその
日を
暮らし、
病気になってからは、
食うや
食わずにいて、ついに、のたれ
死にをしたあわれな
男がありました。その
死骸は
犬ころの
屍と
同じく、
草深い、
野原のすみにうずめられてしまった。そして、その
人の一
生は、
終わってしまったのであるが、
彼の
霊魂だけは、どうしても
浮かばれなかったのです。
「
文明だという、にぎやかな
世の
中へ
生まれ
出て、いったいどんなしあわせを
受けたろう?
生きている
間は、
世の
中のために
仕事をした。
死んでも
形だけの
葬式ひとつしてもらえなかった……これでは、
犬やねこと
同じであって、
冥土の
門もくぐれないではないか?」
霊魂は、まったく
浮かばれなかったのです。りっぱなお
寺へいって、お
経をあげてもらい、
丁寧に
葬いをしてもらってから、
冥土の
旅につこうと
思いました。
うす
曇った、
風の
寒い
日の
午後のこと、この
貧乏人の
霊魂は、☆
棺屋の
前をうろついていました。
「だれか、
冥土の
途づれにするものはないかな。」と、
人間を
物色していたのです。
ここに、
金持ちの
老人がありました。
何不足なく
暮らしていました。ただ、もっと
見たい、もっと
知りたい、もっと
味わいたいという
欲望は、かずかぎりなくあったが、だんだん
体力の
衰えるのをどうすることもできませんでした。
寒い
風の
吹く
中を、この
老人は
歩いてきました。
棺屋の
前にさしかかって、ふと、その
店先にあった
棺や、
花輪が
目に
触れると、
「あの
中へ、だれかはいるのだろうが、このおれも、いつか一
度は、はいらなければならぬ。ああ、そんなことを
思っても、
気が
滅入ってくる……。」と、
頭を
振って、
通り
過ぎようとしました。
これを
見た
霊魂は、
冷たい
青い
笑いをしました。そして、
金持ちの
背中へ、そっと、しがみつきました。
「おお
寒い! かぜをひいたかな。」
金持ちの
老人は、
思わず
身ぶるいをして、
家へ
急ぎました。
それから、
十日ばかりたつと、
金持ちは、かぜがもとで
死んだのであります。
生きている
間は、
自動車に、
乗ったことのない
貧しい
男の
霊魂は、いま
金色の
自動車に
乗せられて、
冥土の
旅をつづけました。また、ありがたいお
経によって、すべての
妄念から
洗い
浄められた。
金持ちの
霊魂は、
平等・
無差別の
生まれる
前に
立ち
返って、二つの
魂は
仲よくうちとけていました。
「こうして
途づれがあれば、十
万億土の
旅も、さびしいことはない。」と、
金持ちの
霊魂がいえば、
「なぜ、
娑婆にいるうちから、こうして、お
友だちにならなかったものか……。」と、
貧乏人の
霊魂は、いぶかしく
感じました。
あちらの
空には、ちぎれ、ちぎれの
雲が
飛んで、
青い
水色の
山が、
地平線から、
顔を
出して
微笑しています。
秋雨の
降った
後の
野原は、
草も
木も
色づいて、
鳥の
声もきこえませんでした。
金色にかがやく、
棺を
載せた
自動車は、ぬかるみの
道をいくたびか、
右と
左におどりながら、
火葬場の
方へと
走ったのです。
☆
棺屋――
葬儀社
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