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窓の内と外_小川未明童話集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334
 

真昼のお化け

小川未明


こう一は、かぶとむしをろうとおもって、ながいさおをって、神社じんじゃ境内けいだいにある、かしわのしたへいってみました。けれど、もうだれかってしまったのか、それとも、どこへかんでいっていないのか、ただおおきなすずめばちだけが二、三びき前後ぜんご警戒けいかいしながら、みきからながしるまろうとしていました。しかたなく、鳥居とりいのところまでもどってきて、ぼんやりとしてっていると、せみのこえがうるさいほど、あめるようにあたまうえからきこえてくるのでした。そのとき、ゆうちゃんが、あちらからけてきました。
「なにをしているのだい?」
「なんにもしていない。」
こう一は、さびしくおもっていたところで、おともだちをばうれしそうにむかえたのです。
勇吉ゆうきちは、ならんで鳥居とりいによりかかるとすぐに、問題もんだいして、
ながあしあるいて、ひらたいあしおよいで、からだげてあとずさりするもの、なあんだ……。」と、こう一にかってききました。
かんがえもの?」
「うううん、こうちゃんのっているものだよ。」と、勇吉ゆうきちわらいました。
「なんだろうな。」
こう一は、しきりにかんがえていました。
かぶとむしではないし……。
「ああ、わかった。ばっただろう?」と、おおきなこえこたえました。
勇吉ゆうきちは、ちょっとひからして、あたまをかしげたが、
「ちがうよ、ばったは、およぎはしないよ。」と、ほがらかに、わらったのです。
ぼく、わからないからおしえて。」
とうとう、こう一は、降参こうさんしました。
「えびさ。きょうぼく学校がっこう理料りか時間じかんにならったんだよ。こうちゃんもえびはよくっているだろう。けれど、そうくと不思議ふしぎおもわない? ぼく、えびをおもしろいとおもったんだ。かぶとむしなんかより、えびのほうがずっとおもしろいとおもったんだよ。あした、かわへびんどをっていって、ちいさなえびをってきて、びんのなかれてながめるのだ。」と、勇吉ゆうきちは、おもしろいことを発見はっけんしたように、いいました。
学校がっこうでは、一ねんうえ勇吉ゆうきちのいうことが、なんとなくこう一にまことらしくこえて、めずらしいものにかんじられました。自分じぶん来年らいねんになれば、やはり理科りかおなじところをならうのだろう、そうしたら、かぶとむしよりもえびがおもしろくなり、えびよりはもっとおもしろいものがあることにづくかもしれないとおもいました。すると、きゅうにこのおおきな自然しぜんが、とうとい、うつくしい、かがや御殿ごてんのごとくなかうつったのです。
こうちゃん、ぼく、えびをとってきたら、どんなびんのなかれるとおもう? ぼくすてきなことを発明はつめいしたんだよ。きみわからないだろう。」と、勇吉ゆうきちは、いいました。まったく、そんなことが、こう一にわかろうはずがありませんでした。
むしろ、いろいろなことをっている勇吉ゆうきちをうらやましそうに、こう一は、だまってつめていたのです。
きみ水族館すいぞくかんで、おさかながガラスのはこなかを、およぐのをたろう? 水草みずくさけて、ひらりひらりとるがしたり、また、すうい、すういとちいさなあわをくちからして。ぼく、あんなのをつくるんだよ。」
ゆうちゃん、どうして、つくるの?」
ものかい? おしえてあげようか、ぼくうちへおいでよ。」
勇吉ゆうきちが、さきになって、こう一は、あとからついて、人通ひとどおりのすくない、しろかわいた真昼まひる往来おうらいけていきました。
ぼくも、にいさんからきいたので、まだ実験じっけんしてみないのだから、うまくできるか、どうかわからないのだ。ここに、っておいで。」
勇吉ゆうきちは、うちはいって、アルコールと、ひもと、マッチをってきました。
「おかあさんが、昼寝ひるねをなさっていて、つからなくてよかった。」
かれは、つかればしかられるということをほのめかしたのでした。それから、物置ものおきけて、なかから、からの一しょうびんをしました。また、バケツにみずをいっぱいれて、そばにそなえておきました。
「どうするの?」と、こう一は、ききました。
「このガラスのびんをうまくるのさ。そうすれば、いいものができるだろう……。」と、勇吉ゆうきちは、おおきなびんをながめて、そのなか水草みずくされ、あかべんたんや、えびをおよがせるおもしろみを、いまからほそくして、空想くうそうせずにいられませんでした。
「うまく、二つにれる?」と、こう一が、うたがっているに、勇吉ゆうきちは、ひもをアルコールにひたして、びんのどうきました。そして、マッチをすって、それへをつけると、えるかえぬかすかな青白あおじろほのおが、ひものうえからえはじめました。いいかげんの時分じぶんに、きゅうにバケツのみずへびんをつけると、ピン! とおとがして、ひもをいたところから、びんは、ぷたつにきれいにかれたのです。
「おお。」といって、こう一は、もちろん、それをやった勇吉ゆうきちまでが、おもわず感歎かんたんして、こえはなったのであります。こう一は自分じぶんわすれて、っているさおを地面じめんたおしたのでありました。

 


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