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迷い路_小川未明童話集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334
 


「きょう、ゆうちゃんはびんどをってかわへえびをりにいくといったが、ぼくもいっしょにゆこうかな。けれど、だいぶそらくらくなって、あめりそうだ。」
こう一は、学校がっこうかえりにかんがえながら、はらっぱをあるいてきました。そらていた地面じめんうつすと、なんだろう? 黒光くろびかりのする、とげとげしたものが、ゆくさきくさうえちているのでした。
むしかしらん?」
こう一は、すぐに、それがきもののようにかんじました。なんだか気味きみわるいものです。しかしうごきません。用心深ようじんぶかく、をこらしてちかづくと、ながあしがあって、二つのひかっています。かぶとむしではない、むかででもない、えびのようであるが……まだたことのないむしとしかおもわれませんでした。
「なんだろうな?」と、かれは、もっとちかづいてよくると、ながいひげがあって、それはまちがいなく、えびでありました。
「えびだ、おおきなえびだ!」
不思議ふしぎでたまりません。こんなくさうえちているのに、いまみずなかから、はねしたばかりのように、黒色くろいろこうらがぬれているなどであります。かれは、ちょっと、それをひろげるのにためらいました。が、えびであることがわかると、しぜんに勇気ゆうきて、げたのです。
なるほど、ゆうちゃんのいったように、ながあしひらたいあしとがあって、どこもきずがついていませんでした。
みずなかれたら、かえるかもしれぬと、こう一はおもったので、なるべくつよにぎらないようにして、いそいだのでありました。
「どうして、こんなところに、えびがあったんだろうな。」
かんがえれば、かんがえるほど、不思議ふしぎでなりませんでした。それから、このえびをどうしたらいいかということにもまよったのでした。うちかえって、すぐみずれてみよう、そして、きたらっておこう、もしかえらなかったら、そうだ、標本ひょうほんにしようか?
だが、もっとにかかるのは、わる病気びょうきのはやる時分じぶんに、こんなものをひろってかえると、きっとおとうさんもおかあさんも、やかましくいって、しかることでした。だから、うちひとたちのにつかないところにかなければならない。
こう一は、あたまに、いろんなことをかんがえながら、はらっぱのなかに、まって、えびを鼻先はなさきへぶらさげてにおいをかいでみました。まだ、うみおよいでいた時分じぶんの、いそのこっていました。
「きっと、かえるかもしれない。」
かれは、かばんから、半紙はんしして、えびをつつみました。そして、いそぎました。うちくと、洗面器せんめんき塩水しおみずつくって、れてみたのです。けれど、やはり、えびはうごきませんでした。かれは、ともかく、この、えびをゆうちゃんにせようとおもって、またかみつつんで、がきあいだかくしました。
ちゃだなのうえに、おやつがありますよ。」と、おかあさんが、おっしゃいました。こう一は、おやつもべないで、そとしたのであります。
ゆうちゃんがたら、びっくりするだろうな。」と、あるきながら、ときどき、えびをかみからしてながめていました。
指先ゆびさきでつまんで、これが、みずなかにいる時分じぶん姿すがた想像そうぞうして、空中くうちゅうおよがしてみました。

みやまえまでくると、ワン、ワンとけたたましいいぬのほえごえがしました。
境内けいだいをのぞくと、昨日きのう、かぶとむしをさがした、かしわのしたで、ペスが、しきりに地面じめんるように、つめで、かいて、さわいでいるのでした。
「ペスや、なにしているんだい?」
こう一は、さっそく、いぬのそばへいってみました。へびでもつけたのかとおもったのが、そうでなくちいさなあなかってほえているのでした。
「なあんだ。」といっていると、くろいものがあななかからあたましたようです。
「おや、なにかえたぞ。」
こう一は、棒切ぼうきれをきがして、あなをつついてみました。おくほうに、ちいさなしかのつのかたちをしたものが、ちょっとえています。
「やあ、かぶとのだ。こんなところに、かぶとむしのあながあるとはおもわなかったなあ。ペス、おまえはおりこうだね。」と、こう一は、よろこんでペスのあたまをなでてやりました。そして、えびをあちらののところへいてきて、いっしょうけんめいに、そのあななかからかぶとむしをすのに、夢中むちゅうになっていました。
やっと一ぴきつかまえると、まだいるだろうと、こう一は、かおあかくして、かおあせながしながら、あなかえしていました。また、あちらで、「ワン、ワン。」と、ペスが、ほえました。かおげると、おどろいたのです。ペスは、えびをくわえて、二、三あたまったが、そのまま、あちらへしていきました。
「ペス! それは、大事だいじなんだよ。」といって、こう一は、あといかけたけれど、だめでした。もう、姿すがたえなくなってしまいました。
学校がっこう運動場うんどうじょうで、あそんでいるとき、勇吉ゆうきちがそばへきましたから、
ゆうちゃん、かわさかなりにいったの。」と、こう一は、ききました。
かみなりしたろう、あめるといけないからいかなかった。それで、ばん縁日えんにちへいって、きんめだかをってきたのさ。」
「あのびんにれた?」
れたよ、こんどかわへいって、ってくるのだ。」
こう一は、えびをひろったはなしをしました。
「えっ、あのはらっぱでかい。」と、勇吉ゆうきちは、さもしんじられないというような、かおつきをしたのです。
「うそでない、くさうえちていたんだよ。」
こう一は、それ以上いじょう、ほんとうだとしんじさせるようにいえないことを、至極しごく残念ざんねんおもいました。
魚屋さかなやさんかしらん。しかし、あんなはらっぱをとおるはずがないだろう。また、ねこがさらってきたなら、べてしまうし。そのえびは、どっか、きずがついていたかい。」と、勇吉ゆうきちが、ききました。
「一ぽんあしがとれていなかった。まだきているように、黒光くろびかりがしていた。」
「そして、あしが、うごいていた?」
「じっとしていた。ぼくうちかえって、すぐに塩水しおみずれてみたけれど、んでいたよ。」と、こう一は、いいました。
「そいつは、おかしいね。それで、そのえびどうしたの。」と、勇吉ゆうきちは、そんなこと、ありないことだといわぬばかりに、いました。
ぼくゆうちゃんに、せようとおもって、っていったのだよ。途中とちゅうで、かぶとむしをつけたので、つかまえていると、ペスがくわえて、げてしまったんだ。」と、こう一は、かんがえても残念ざんねんそうに、こたえました。
「なあんだ――。」と、勇吉ゆうきちは、両手りょうてあたまうえにのせて、しばらくかんがえていたが、
「ああ、こうちゃん、わかった。きみは、ゆめたんだ! きっと、こうちゃんは、ゆめて、それをほんとうにあったこととおもっているんだ。だい一、うみにいるえびが、はらっぱへくるわけがないさ。それでなければ、おけだ!」
勇吉ゆうきちは、太陽たいようがきらきらする、もりほう見上げて、わらいました。しろくもが、のように、あおそらはしっていきました。
「えっ、おけ? なんでおけであるもんか……。」と、こう一は、りきんで、いいはったが、自分じぶんながら、昨日きのうのことをかんがえると、まったくゆめのようながしてならなかったのです。

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11/18 07:35