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三つのお人形(2)_小川未明童話集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334
 


それから、まもない、あるのことでした。っぱらいの紳士しんしが、人形屋にんぎょうやみせさきへはいってきて、いろいろの人形にんぎょうさせてていましたが、どれもにいりませんでした。そのうち、おどっている人形にんぎょうをつけると、さっそく、りあげて、「これがいい。」といって、かねはらい、れいのごとくはこにいれてもらってってゆきました。そのばん街燈がいとうは、みせさきをらして、びっくりしました。おどっている人形にんぎょう姿すがたえなかったからです。
「とうとうあのお人形にんぎょうさんも、どこかへいってしまった。」と、街燈がいとうは、ひとりごとをしました。
っぱらいの紳士しんしに、つれられていった人形にんぎょうは、でなかった。自分じぶんは、どんなところへつれられてゆくのだろう? こう、くらはこなかかんがえていました。
紳士しんしは、電車でんしゃると、うとうと居眠いねむりをしました。そして、ふとがつくと、していましたので、びっくりしてりました。うちかえるまで、人形にんぎょうをどこかへわすれてきたことにづかなかったのであります。
不幸ふこうな、この人形にんぎょうは、それからいろいろのめにあいましたが、そのとしなつすえ時分じぶんに、ほかの古道具ふるどうぐなどといっしょに、露店ろてんにさらされていました。
「おちぶれてもおどっているなんて、のんきなものですね。」と、こちらのすみで、すずりと筆立ふでたてが、あちらの人形にんぎょう冷笑れいしょうしていました。
しかし、露店ろてん主人しゅじんは、人形にんぎょう大事だいじにしました。くるませて、はこぶ時分じぶんにも、や、あしをいためはしないかと新聞紙しんぶんしいて、できるだけの注意ちゅういをしたのです。
うつくしいものは、ちがったものだ。」と、ほかの古道具ふるどうぐたちは、自分じぶんらが、そのようにかわいがられないので、不平ふへいをもらしたものもあります。しかし、人形にんぎょうは、むかしのことをおもすたびに、おともだちは、いまごろは、それぞれおちついて、平和へいわらしているであろう。自分じぶんばかりは、いまだにうえさだまらぬのをかなしくおもいました。あるのことです。いつものごとく、露店ろてんにならべられると、かたわらに、あたらしくどこからかられてきた、電気でんきスタンドがありました。
わたしは、今日きょう、ここへお仲間入なかまいりにきたのですが、あなたと姉妹きょうだいのようにているお人形にんぎょうさんといままで、一つのうちらしていましたよ。」と、スタンドはつくづく、おどっている人形にんぎょうながらいいました。
「どんなようすの人形にんぎょうですか?」と、ついおどっている人形にんぎょうは、スタンドのはなしに、つりこまれてこたえたのでした。なぜなら、自分じぶんりたいとおもっているともうえのようながしたからです。
「ちょうど、あなたとおなじくらいのをして、すらりとすましてっているお人形にんぎょうでした。」
「それなら、わたしとなかのいいおともだちですよ。わたしは、どれほど、そのかたうえりたいとおもいましたか。どうか、わたしに、くわしくおはなしかしてくださいませんか。」とたのみました。
電気でんきスタンドは、つぎのように物語ものがたったのであります。
「いままで、わたしがいたうちのおじょうさんが、あるまちから、うつくしい、姿すがたのお人形にんぎょうってかえりました。すると、うちじゅうのひとたちは、まあ、きれいなお人形にんぎょうだといって、たなのうえかざりました。そして、それまで、たなのうえせてあった、ふるいつぼや、またよごれたおもちゃなどは、あたらしくきたお人形にんぎょうに、蹴落けおとされたように、たなからりのぞかれてしまって、姿すがたうつくしいお人形にんぎょうだけが、ひとり、そこを占領せんりょうしたのであります。すると、いままで、たなのうえにあった、つぼや、おもちゃは、不平ふへいをいいました。あのお人形にんぎょうがきたばっかりに、わたしたちは、たなのうえからおろされて、はこなかへおしこめられてしまった。ほんとうに、にくいお人形にんぎょうだといったのでした。みみのとれた、うまのおもちゃは、くちけたつぼに、そう不平ふへいをいうものでありません、いつか、あのお人形にんぎょうわたしたちのようになるときがありますよ、といってなぐさめたのでした。それは、まったくおうまのいったとおりでした。あるあさ、おじょうさんは、そうじをしようとして、はたきで、あやまってお人形にんぎょうとしました。そのはずみに、お人形にんぎょう片手かたてがもげてしまった。おじょうさんはびっくりして、さっそく、のりで、とれたをつけました。けれどどうしても傷跡きずあとはとれませんでした。このお人形にんぎょうが、こうして不具かたわになると、はこなかへいれられた、くちけたつぼや、みみのとれたおうまや、ほかのおもちゃたちは、またされて、たなのうえならべられたのでした。それは、もはやひとり、このお人形にんぎょうだけが完全かんぜんだとは、いわれなかったからです。それで、いまは、お人形にんぎょうもほかのおもちゃたちも、平等びょうどうのもてなしをけて、みんなは、なかよく、平和へいわらしています……。」と、はなしたのであります。
おどっている人形にんぎょうは、こうして、二人ふたりともだちの消息しょうそくることができました。一つは、外国がいこくへゆき、一つはおじょうさんのうちに、らしていることがわかった。けれど、自分じぶん消息しょうそくは、どうしたら、あのふたりの人形にんぎょうらせることができましょう?
「もし、おともだちは、わたしが、まだこうして、まち露店ろてんにさらされているとったら、不幸ふこうかただといって、あわれんでくださるにちがいない。」と、おどっている人形にんぎょうはいいました。
「いえ、そうでありません。きっと、ふたりのおともだちは、いまごろは、怠屈たいくつして、このあかるいはなやかなまちをもう一たいとおもっていなさるでしょう。そして、あなたのうえをうらやましがっていなさるにちがいありません。」と、電気でんきスタンドは、いいました。なぜなら、ひとのことというものは、なんでもよくえるものですから……。毎晩まいばん大空おおぞららすつきだけは、みんなの運命うんめいっていました。そして、あるばんであったが、あの街燈がいとうにも、おどっている人形にんぎょうのことをはなしたのです。

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