二
夜になると、
街燈が、
店さきでともりました。その
光は、ちょうど、
踊っている
人形のところへとどきました。
「おや、あなたおひとりになったのですか。あの
方は、どこへゆかれました。」と、
光は、たずねた。
「ひとりは、
外国人に、ひとりは、どこかの
娘さんにつれられてゆきました。わたしは、ふたりの
方のおたよりを
知りたいと
思うのですが、あなたはおわかりになりませんか?」と、
人形は、いいました。
円い
頭をした、
脊の
高い
街燈は、ため
息をついて、
「いくら、
私が
脊が
高くても、なんで、おふたりの
行方がわかりましょう? もし、もし、
待ってください。
毎晩、
蛾がやってきますから、
知っているか
聞いてみてあげましょう。」と、
答えました。
踊っている
人形は、なにぶんにもよろしくといって
頼みました。
夜になると、
街の
中は、いっそう、にぎやかになりました。
楽器の
音が
流れたり、
草花屋が
出たりしました。ちょうど、そのとき、どこからか、
街燈の
光を
慕って、
蛾が
飛んできました。
光は
人形と
約束をしたことを
思い
出して、二つの
人形について、なにか
知らないかとたずねたのです。
「お
人形ですって?
私がなんで、そんなものを
注意しましょう。
私の
好きなのは、
花とあなたばかしです。
昼は、
花をたずねて
歩き、
夜は、こうして
光を
慕って
飛んできます。
短い
私たちの一
生は、この
世の
中でいちばん
美しいものを
見ることです。」と、
蛾は、いいました。
あくる
日の
晩、
街燈は、このことを
踊っている
人形に
話しました。これを
聞くと
人形は、がっかりしました。それは、ふたりの
友だちの
消息がわからないということよりも、
世の
中でいちばん
美しいのは、
花と
光であると、
蛾がいったというなら、
自分は、まったく
無視されたためです。
「そう、
力を
落としたものではありません。もう、しばらく、あなたがここにおいでなさるなら、だれか、ほかのものにも
聞いてみてあげますよ。」と、
街燈は、なぐさめたのであります。
二、三
日たってから、あたりのまぶしい
昼間のこと、つばめが、ちょうど
頭の
上へ
飛んできました。
「もし、もし、つばめさん、すこしおたずねしたいことがあるのですが……。」と、
街燈は、
呼びとめたのです。すると、つばめは、
屋根のひさしにとまりました。
「なんのご
用ですか?」といって、つばめは、
首をかしげて、
街燈を
見ました。
「ここから、あの
店さきに
飾ってある、
踊っている
人形が
見えるでしょう……。」
つばめの
目は、よかったから、すぐわかりました。
「よく
見えます。あの
小さなたなには、たった一つしかありませんね。」
「三つあったのですが、ついこのごろ、二つ
売れてしまったのですよ。三つのお
人形は、
同じ
人の
手で
作られたので、それは
仲がよかったのです。それで、一つになってしまって、あのお
人形はさびしがっています。」
「それは、
無理もないことです。」と、つばめも、
同情しました。
「そんなわけで、二つのお
友だちは、どこへいったかと
思い
暮らしているのですが、あなたは、
身軽に
方々をお
歩きなさいますが、お
知りにはなりませんか……。」と、
街燈は、いいました。
「いくら、
私が、
身軽に
方々を
飛びまわるからといって、どうして、
家の
内のことまでがわかりましょう……。それは、
無理というものですよ。」
「一つのすわっているお
人形は、
外国人が
買っていったというのですが。」
「
外国人ですって……。そういえば、
私は、
人形をたくさん
集めている
外国人を
知っています。その
人は、ここから七、八
里離れた、
海岸に
住んでいました。
家族といっては、ほかに
年とった、
雇いのおばあさんがいるばかり、
広い
庭には、いっぱい
草花を
植えて、これを
愛していました。また、
晩方になると、その
人は、
海のほとりに
立って、あちらをながめて、ふるさとのことを
思い
出していました。ある
日、
私が、
人のいない
時分に、
窓からのぞくと、いろいろのお
人形が、たなの
上に
飾られてありましたが、それらのお
人形たちは、
近々に、
主人が
外国へ
帰るそうだが、たぶん、そのときつれてゆかれるだろうということを
話していました。
知らない
国へゆくのをおもしろがっているものもありましたが、また、いったら、もう二
度とこちらへは
帰られないといって、
悲しんでいるものもありました。……もし、あの
中に、そのお
友だちがいられたなら、おそらく、もう
消息は
聞かれますまい。なぜなら、二
度めに、
私が、その
家の
窓をのぞいたときには、すっかりお
人形は、
荷造りされていたようすでしたから……。」
つばめは、こう
物語ったのであります。
街燈は
夜になったときに、ふたたび、このことを
踊っている
人形に
話しました。
「あの
人形は、どこへいってもかわいがられるでしょう。」と、
人形は
沈みがちに、
踊りながらいいました。