みつばちのきた日_小川未明童話集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29 点击:3334
四
博物館へ、
学者と三
人の
若者たちはまいりました。やがて、そこへ
金色の
箱が
出されたのであります。その
箱はあまり
大きくなかったが、
黄金で
造られていました。それですから
土の
中にうずもれていても、
腐ることがなかったのです。三つのかぎはどの一つを
取っても、その
箱のふたを
開けることができました。
学者の
手によって、三
人の
見ている
前で、その
箱は
開かれました。
中には、ただ一
枚の
字を
書いた
紙がはいっていたのです。
「わたしは、三つのかぎをいろいろな
方法で
捨ておきました。きっと、それらは、
私のめぐりあいたいと
思う
人々の
手によって
拾われるであろうと
思います。もしその
人が
広い
土地が
欲しいなら、その
土地をあげましょう。もし、その
人が
芸術が
好きなら、いろいろの
珍しい
宝をあげましょう。もし、その
人が、わたしと
結婚を
希望されるなら、わたしは、その
勇敢な
方の
妻となります……。」という
意味のことが
書いてありました。
三
人は、この
文字を
読んで
目を
輝かしました。
「
先生、
私たちは、どこへいったらこの
姫君にあうことができますか?」と、三
人は、
学者に
問うたのです。すると、
学者は、三
人の
顔を
見て
冷ややかに
笑いながら、
「もう、
取りかえしのつかない
大昔のことだ。すくなくも三百
年は、その
時分からたっていよう……。」と、
学者は、
答えたのであります。
三
人は、がっかりして、おのおのの
持っているかぎを三つとも
博物館に
収めて、いずこへとなく、
思い
思いに
去ってゆきました。
「もう、こんなかぎが、なんの
役にたとう……。」
彼らが、
口々にそういってゆく
後ろ
姿を、
学者は
見送りながら
微笑していました。
それから
後のことです。
学者はなにかの
記録から、
偶然つぎのような
事柄を
見いだしたのであります。
――
殿さまの
一人娘であった
姫さまは、またとないほどの
美人であったけれど、三
人まで
願いをかけた
婿君が、
一人も
見いだされなかったことを
恥じて、この
山に
上られ、
一生を
尼になって
暮らし
給われた――。
この
記録は、
高い
山の
上にあった、
廃寺の
中から
発見されたのでした。
学者は、いつか三
人の
男たちが、
幾百
年の
後になって、しかもうちそろって、かぎを
持ちながら
自分を
訪ねてきたことを
思い
出しました。そして、
姫さまというのは、まさしく、あの
博物館に
収められてある
黄金の
箱の
持ち
主であり、
祈願をかけたというのは、あの
中にはいっていた
紙に
認められていた
文字であろうと
知ったのであります。
学者は、その
高い
山へ、ある
年の
夏のこと、わざわざ
登りました。
白い
雲が、いただきをかすめて
飛んでゆきました。
壊れかかった
寺には、いまはだれも
人の
住んでいるようすもなかった。
学者は、しばらくたたずんで、
昔、この
寺に
美しい
尼さんが、
夜々空を
仰いで、
月の
光に、
雲の
姿に、
物思いに
沈んだ
姿を
想像したのであります。
――一九二五・一〇作――
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