三
また、あるところに、
年の
若い
男がありましたが、
毎晩のように、
海岸の
岩の
上へきては、
海の
中から
起こる、かすかな
笛の
音を
聞いたのでありました。
海の
中には、
人魚というものがすんでいるということだが、その
男は、この
笛を
人魚が
吹くのでないかとさえ
思ったのです。
「なんという、いい
笛の
音だろう。」と、
彼は、
夜の
更けるのも
知らずに、その
笛の
音に
聞きとれていました。
月のいい
晩には、その
笛の
音は
近くに
聞こえてきました。
曇った
夜には、その
笛の
音は
遠くになって
聞かれました。そして、あらしの
晩には、まったく
聞こえないことすらもあったのです。
ある
夜、
彼は、いつものごとく
岩の
上にたたずんで
耳を
傾けていました。
明るいよい
月夜なのにもかかわらず、
笛の
音がきこえてきませんでした。どうしたのだろうと、
彼は
思っていました。そして、ただ
聞こえるものは、
打ち
寄せる
波のひびきだけであって、
笛の
音はきこえてきませんでした。おそらく、それは
永久に
聞かれないもののようにすら、なんとなく
思われたのであります。
このとき、
砂の
中にうずもれている
光ったものに、
彼の
目はとまりました。
海の
中から、
波がそこに
打ち
上げたものでした。
彼は、それがなんだろうと
思って
拾い
上げると、
金色のかぎでありました。このかぎが
浜に
上がった
日から、
笛の
音のやんだことを
不思議とも
思いました。もしや、
人魚がこのかぎを
自分に
授けてくれて、なにかまだこの
世に
発見せられない、
隠された
箱を
開かせるためではないかと
考えました。
彼は、そのかぎを
持って
家に
帰りました。
三
人の
男は、べつべつにかぎを
持って、この
世の
中に
隠されている
宝の
箱を
探して
歩いたのであります。このうわさは、いつしか
人々の
口の
端にも
上りました。そして、三
人の
男が、ついにあるとき、あるところで
落ちあって、
自分の
持っているおのおののかぎを
出してみると、三つはまったく
同じかぎであることを
知りました。
「どうして、こう
同じものが三つあるのだろうか。」と、
一人の
青年は
怪しみました。
「きっと、三つのかぎが、三つとも
見つかるものでない。その
中の一つが、この
世の
中に
残ればいいと、
箱の
主は
思ったにちがいない。」と、
他の
若者は
答えました。
「いや、三つのかぎの
中で、だれかそのかぎを
拾って、いちばん
早く
箱を
開けたものに、その
箱の
中の
宝をやるということではなかろうか。」と、
年の
若い
男がいいました。
「きっと、その
箱の
中には、
宝がはいっているにちがいない。」
「
私も、そう
思う。」
「あるいは、
私たちの
思っているような
宝物ではないかもしれない。」
三
人の
男は、
思い
思いのことをいいました。しかし、その
宝のはいっている
箱は、どこにあるものか、まったく
見当すらつかなかったのであります。
「
私は、このかぎを
昔の
城跡から
見つけ
出したのだから、
昔のものにちがいないと
思う。」と、
一人がいいますと、
「しかし、
私は、わしの
足に
結びつけられているのを
取ったのだから、そんなに
昔のものであるはずがなかろう。」と、
一人はいいました。
三
人は、このかぎを、
都に
持って
出て、ある
学者に
見せて
判断をしてもらうことにしたのであります。
学者は、
子細に
見てこういいました。
「このかぎのかかる
黄金の
箱は、
幾年前か
土の
中から
掘り
出されて、いま
博物館に
収めてあります。しかし、
私の
考えでは、その
中になにもはいっているようすがなかった。とにかく、これから
博物館へごいっしょにまいりまして
調べてみましょう。」
三
人は、
学者の
言葉を
聞いて
失望しました。けれど、あるいは、この
箱の
中に、なにかはいっていはしないかという
一筋の
希望を
持ちながら、
出かけてゆきました。