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森の暗き夜(5)_小川未明童話集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334
 


森に、秋が来た。怪しな啼声のする、紫と赤の混毛まじりげのある鳥はどこにか去った。この鳥の雛は、親鳥と共に南方の、赤い花の咲いている、温かな国を慕って飛び去った。葉の色が黄いろくなった。頭髪のような、黒い毛の垂れ下がっている鳥の巣は、青い、澄み渡った空の下にひらひらと懸っていた。雨の降るたびに黄色な葉が、はらはらと落ちた。中には茎の長い、黒く腐ったのが、ずるりずるりと抜髪のようになって枝から落ちた。
雷のために裂かれた木は、夕陽に赤く色どられて立っている。風は悲しく叫び、雨は女の涙をいくたびか誘った。いつの間にか、白い雪が降って来た。白いけものの、夜半に啼く声が聞えた。黒い鳥が、どんよりとした空の下に飛び廻って、林から林へ、白い雪の上にも、木の枝にも、止まっているのが見えた。
やがて、冬が去った。
女は、やはり東を向いて、下を向いて仕事をしている。障子は、のみで、上皮の薄膜を剥ぎ取って、中から夜の黒い地肌を露出したように無残に見えた。
森は、いつしかまた重い、青と緑に色どられた。夜の暗黒な翼が、次第に下へ下へと落ちて来た。いつしか黒い森の頂きと接吻せっぷんする。啼いていた小鳥は、夜の、黒色の翼の下に隠れて眠ってしまった。
今、赤い爛れた目のような、ランプの下に坐っている女は、一人でなかった。背に、小さな乳飲児ちのみごを負っていた。子供は、すやすやと眠っている。力なげなランプの光りが、ここまで達しなかった。
その児は痩せている。口が尖っている。呼吸をする毎に、胴腹の骨が、ぴくりぴくりと浮き出て、また引込んだ。眼は大きく、皿をめたように飛び出ていた。頭髪は、幾十本か、数える位しか固まって生えていなかった。口は大きくて、開いている。この世界の空気が堅くて、吸うのが困難のように見受けられた。胴より、割合に大きな頭が、女の背に投げ出されている。

 


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