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山へ帰りゆく父(3)_小川未明童話集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3335
 
こうして、くさいしとが相慰あいなぐさったのも、つかのことでありました。くさは、とうとうれてしまったのです。
息子むすこは、くされたのを、どんなにかなしんだかしれません。
「そのうちに、なにか、かわりのいいくさつけてきてえてさしあげます。」と、植木屋うえきやはいいました。
あるのこと、植木屋うえきやは、バルコニーにがりました。そして、れたくさはちってりてきました。なにか、それにわりのくさえようとおもったからです。
そののちのことでありました。息子むすこは、よるとこなかにはいってから、れたくさや、ってきたいしのことをおもしました。せめてあのいしなりと大事だいじにして、記念きねんにしておこうとおもいました。そして、けるのをってバルコニーにてみますと、いつのまにか、そこにはあたらしいくさわったはちいてありました。そして、もとよりれたくさも、いしかげだにられませんでした。
「このくさは、どうしたのだ?」といって、家内かないのものにきますと、
昨日きのう植木屋うえきやが、あなたのお留守るすってきましたのです。」とこたえました。
息子むすこは、れたくさはしかたがないとしても、いしは、どこへいったろう。植木屋うえきやいてみようと、さっそく、植木屋うえきやびにやりました。
「あの、くさしたにあった、くろいしでございますか。つまらないいしだとおもって、ててしまいました。」と、植木屋うえきやこたえました。
息子むすこは、これをくとたいそうおどろきました。
「あのいしは、わたし大事だいじいしだ。どこへててしまった?」といました。
すると、植木屋うえきやは、しばらくかんがえていましたが、
「たしか、ここからのかえみちに、あちらのひろててしまいました。」とこたえたのであります。
そのは、もと建物たてものがあったのですが、いまはなにもなくくさ茫々ぼうぼうとしてえていました。そして、子供こどもらはそのなかあそび、通行つうこうするひとたちは、近道ちかみちするために、そのよこぎったのであります。
息子むすこは、どんなに、がっかりしたかしれません。どうしても、そのいしわすれることができませんでした。すると、くろいしが、夜露よつゆにしっとりと湿れて、広場ひろばなかで、つきひかりらされてかがやいているゆめました。
ふとをさましますと、そとは、ちょうどそのゆめたようないい月夜つきよで、ちいさなまどあかるく月光げっこうらされていました。かれは、さっそく、がりました。そして、その広場ひろばへ、いしちていないかとさがしにゆきました。
すっかりあき景色けしきとなって、こおろぎがいていました。うすもやが一めんりて、建物たてものあいだや、はやしあいだや、広場ひろばうえ渦巻うずまいているようにもられました。
息子むすこは、あたりが、すでに眠静ねしずまった真夜中まよなかごろ、一人ひとり広場ひろばにやってきますと、はたしてさびしいつきひかりが、くさをばらしていました。
けれど、くろいしが、どこにあるか、もとより容易ようい見当みあてることができませんでした。かれはあちらへゆき、こちらへさまよっていますと、うすもやのなかに、しょんぼりとっている人影ひとかげいだしました。
「いまごろ、何人なんびとっているのだろう。」と、あやしみながら、よくつめますと、それは、うつくしい、わかおんなでありました。かれは、好奇心こうきしんから、つい、そのそばにちかづいてみるになりました。
「いまごろ、あなたは、そこになにをしていられますか?」と、かれはたずねました。
うつくしいおんなは、ぱっちりとした、すずしいをこちらにけました。そして、かれていましたが、にっこりとわらって、
「わたしは、かんざしのたまをさがしています。もういくねんまえのことでありました。わたしは、およめにゆくまえに、ちょうどこのあたりであったまどから、ある夕暮ゆうぐがた、かんざしのたまをあやまってとしますと、それがころげてどこへいったかえなくなったのです。それから、わたしは、いくらさがしたかしれません。おかあさんからはしかられました。けれど、どうしても、なくしたたまつからなかったのです。わたしは、一生いっしょうそのことをわすれませんでした。今夜こんやも、また、わたしは、そのたまのことをおもしてさがしにきたのです。」と、そのわかおんなは、こたえたのであります。
かれは、このはなしをきくと、なんとなくからだじゅうが、ぞっとしました。おんな姿すがたると、ながくろかみむすばずに、うしろにれていました。
わかい、うつくしいおんなは、いっしょうけんめいに、あしもとのくさけて、たまさがしていました。かれも、またくさけて、なにかそのあたりにちていないかと、熱心ねっしんにたずねましたけれど、べつになにもあたりませんでした。
「どんないろたまでしたか?」
こういって、かれは、かおげて、もう一子細しさいわかおんなようとしますと、どこにもおんなかげは、えなかったのです。
不思議ふしぎなことがあれば、あるものだとおもって、しばらくかれは、茫然ぼうぜんとして、たたずんでいました。
つきは、西にしかたむきました。そして、おもいなしか、ひがしそらしらんで、どこからか、あかつきげるににわとりこえこえてきました。もやは、いつしかれて、そらあおみをましてあたまうえれかかっていました。
 

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