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夕焼けがうすれて(2)_小川未明童話集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334
 
あれほど、をつけるようにと、ごろいっているけれど、どんなことで、あやまちがないともかぎらない。会社かいしゃ電話でんわをかけてみようか、電話でんわ番号ばんごうをよくきいておけばよかったと、おかあさんは、をもんでいられました。
そのうちにも、時計とけいはりはこくこくとたっていったのです。いつもかえ時間じかんより一時間じかん、二時間じかん、二時間半じかんはんぎてしまったのです。
「あのにかぎって、だまって、ほかへあそびにいくようなことはない。」
そうおもうと、おかあさんは、こうして、じっとしていることができませんでした。
くらみちを、おかあさんは、停車場ていしゃじょうほうかってあるいていました。おそらく、途中とちゅう息子むすこあうであろうとおもわれたので、あちらから、足音あしおとがすると、まって、そのひとちかづくのをっていました。ると、ちがっています。またすこしいくと、こちらへくるくつおとがしました。
「あの足音あしおとこそ、たしかに達夫たつおのようだ。」
かあさんは、やみをすかして、のがすまいとしました。ちょうど、としごろから、せいたかさまで、そっくりおなじかったので、
達夫たつおじゃない?」と、おかあさんは、こえをかけました。しかし、ちがっていたとみえて、その少年しょうねんは、だまっていってしまいました。みちがりかどに、肉屋にくやがあって、燈火あかりあかるく往来おうらいへさしています。おかあさんは、しばらくそこにっていました。あとから、あとから、つとめからかえるらしい人影ひとかげが、まえをすぎていきました。
「まだ、こうして、みなさんが、おかえりなさるのだもの、そんなに心配しんぱいすることはない。」おかあさんは、みずから、気持きもちをやすめようとしました。けれども、こうしてみなさんがうちいそいでかえられるのに、いつもはやかえが、どこにどうしているだろうとおもうと、またしてもをもまずにはいられなかったのであります。おかあさんは、とうとう、えきまえまできてしまいました。
ゴウ、ゴウ、と、ひびきをたて、電車でんしゃがホームへはいると、まもなく、どやどやと階段かいだんりて、人々ひとびとさきあらそって、改札口かいさつぐちからそとてきました。なかには、大人おとなにまじって、達夫たつおぐらいの少年しょうねんもありました。片手かたて弁当箱べんとうばこ書物しょもつかかえ、片手かたてにこうもりをにぎっていました。おかあさんは、そのようすつきをると、姿すがたおもして、なんとなくいじらしくなって、あついなみだがしらずにわいてくるのです。
まだ、自分じぶんだけが、かえってきませんでした。おかあさんのむねは、早鐘はやがねつように、どきどきとしました。そして、改札口かいさつぐちのところまできて、階段かいだん見上みあげて、いまか、いまかとっていました。もうつとめからかえひとは、たいていかえったとみえて、その姿すがたえてしまいました。そして、電車でんしゃくたびにりるものは、活動かつどうかえりのものか、さかさけんできて、っぱらっているようなひとたちでありました。そのひとたちのかずもだんだんすくなくなって、おかあさんは、かなしくなってきました。
「きょう、電車でんしゃに、なにか故障こしょうでもなかったでしょうか。」と、たまらなくなって、おかあさんは駅員えきいんにたずねました。
「さあ、べつになかったようですが。」と、駅員えきいん簡単かんたんこたえました。
やがて時計とけいが、十一時半じはんになろうとしたときです。ゴウ、ゴウといってあらたに電車でんしゃがつくと、まもなく人々ひとびとが、ばらばらと階段かいだんりてきました。そのなかに、かたをそびやかして、むねり、元気げんきあるきつきで、階段かいだんりるとまっすぐに改札口かいさつぐちかってきたのは、達夫たつおでありました。おかあさんはるとはしりました。
達夫たつお、どうして、こんなにおそかったのだい。」
「おそくとも、心配しんぱいしなくていいといったのに。」
「でも、もう十一時過じすぎじゃないか。」
「おかあさん、ぼく夜業やぎょうをしてきたんだよ。」
「まあ、よるまではたらいては、おまえのからだにさわるでしょう。」
ははは、はなしながら、とっくにみせめてしまって、くらくなった、まちとおりをあるいていきました。
「おかあさんは、おまえ一人ひとりが、たよりなんだよ。おまえのからだは、大事だいじなんだからね。」
「だいじょうぶですよ、おかあさん。そう心配しんぱいするなら、明日あしたからはやかえります。」
「ああ、どうか、そうしておくれ。」
かあさんは、くらがりで、息子むすこづかれないように、そっとなみだをふきました。
 

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