雪の上のおじいさん(2)_小川未明童話集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29 点击:3335
二人は、また、そこから歩きました。
子供は、風船球を買ってもらって、そのうえ、おじいさんがひじょうにしんせつにしてくれますので、もう泣くのはやめてしまいました。そして、とぼとぼとおじいさんに手を引かれて歩いていました。
「坊や、おまえは、どっちからきたのだ。」と、おじいさんは、こごんで子供の顔をのぞいてききました。
子供は目をくるくるさして、あたりを見まわしました。けれど、子供もこの辺へきたのは、はじめてだとみえて、ぼんやりとして、ただ驚いたように目をみはっているばかりであります。
「坊は、歩いてきた道を覚えているだろう、どちらから歩いてきたのだ。」と、おじいさんは、やさしくたずねました。
子供は、再三おじいさんに、こうして問われたので、なにか返事をしなければ悪いと思ったのか、
「あっち。」と、あてもなく、小さい指で、にぎやかな通りの方を指したのです。
「坊は、きた道を忘れてしまったのだろう。無理もないことだ。なに、もうすこしいったら巡査さんがいるだろう。」と、おじいさんはいいました。
「おじいさん、巡査さんは、いやだ。」と、子供はいって、またしくしくと悲しそうに泣き出しました。
おじいさんは、急にかわいさを増しました。また、巡査と聞いて、泣き出した子供を見ておかしくなりました。
「よし、よし、巡査さんのところへはつれてゆかない。おじいさんが、お家へつれていってやるから泣くのじゃない。ほら、みんなが笑っているぞ。」と、おじいさんはいいました。
公園の方で、鳥のないている声が聞こえました。空を見ると、曇っていました。そして、寒い風が吹いていました。
おじいさんは、ほんとうに困ってしまいました。どうしたら、この子供を家へとどけてやることができるだろうかと思いました。子供の親たちが、どんなに心配しているだろう。そう思うと、早く、子供をあわしてやりたいと思いました。どうして、この子供は、こんなところへ迷ってきたろう。この近所の子供なら、自分の家の方角を知っていそうなものだがと、おじいさんは、いろいろに考えました。
しかし、世間には、怖ろしい鬼のような人間がある。自分が苦しいといって、子供を捨てるような人間も住んでいる。そんな人の心はどんなであろうか。
「坊は、おじいさんの家の子供になるか。」と、おじいさんは、笑いながらききました。
「なったら、また、風船球を買ってくれる?」と、子供は、おじいさんの顔を見上げました。
「ああ、買ってやるとも、いくつも買ってやるぞ。」と、おじいさんは、大きなしわの寄った掌で子供の頭をなでてやりました。おじいさんは、幾十年となく、毎日、圃に出てくわを持っていたので、掌は、堅く、あらくれだっていましたが、いま子供の頭をなでたときには、あたたかい血が通っていたのであります。
このとき、あちらからきちがいのように、髪を振り乱して、女が駆けてきました。
「坊や、おまえはどこへゆくのだい。」と、母親は子供をしかりました。
子供は、またお母さんに、どんなにひどいめにあわされるだろうかと思ったのでしょう、急に大きな声で泣き出しました。
「そんなら、このお子供さんは、あなたのお子さんですかい。」と、おじいさんは女の人にききました。
「私の子供でないかもないもんだ。朝から、どんなに探したことですか、警察へもとどけてありますよ。」と、女はいいました。
「さあ、坊や、お母さんといっしょにゆくだ。」と、おじいさんはいいました。
子供は、ただ泣いていて、おじいさんのそばを離れようとしません。
「おまえは、どこへゆくつもりだい。」と、母親は怖ろしい目をしてどなりました。
「おじいさんといっしょにゆくのだ。」と、子供は泣きながらいいました。
「おじいさん、この子をどこへつれてゆくつもりですか。」と、母親は、おじいさんに向かって腹だたしげに問いました。
おじいさんは、なんという気のたった女だろう。子供がこれではつかないはずだ。きっと家がおもしろくなくて、それで、あてもなく出て歩いているうちに道を迷ってしまったに違いない。それにしても、あんまり優しみのないところをみると、継母であるのかもしれないぞと、おじいさんは、いろいろに考えましたが、こんな女には、わかるようにいわなければだめだと思って、ここまで自分が子供をつれてきたことをすっかり話して聞かせたのです。
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