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雪の上のおじいさん(3)_小川未明童話集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334
 
すると、どんなのたったおんなでも、おじいさんのしてくれたしんせつにたいして、おれいをいわずにはいられませんでした。
「それは、ほんとうにお世話せわさまでした。さあおまえは、こちらへおいで。」と、母親ははおやは、おじいさんにれいをいいながら、子供こどもりました。
「さあ、おかあさんとゆくのだ。」
おじいさんは、なみだをためて、子供こども見送みおくりながらいいました。
子供こどもは、かえりながら、母親ははおやれられてゆきました。そして、その姿すがたは、だんだんあちらに、人影ひとかげかくれてえなくなりました。おじいさんは、ぼんやりと、しばらく見送みおくっていましたが、もういってしまった子供こどもをどうすることもできませんでした。また、いつかふたたびあわれるということもわからなかったのです。
おじいさんは、自分じぶん用事ようじのことをおもしました。そして、また自分じぶんのゆくところをたずねて、まちなかをうろついていました。ちょうど、年寄としよりのまいのように、おじいさんはうろうろしていたのであります。
「ああ、今日きょうは、もうおそい。それにりになりそうだ。はやく、むらかえらなければならん。」と、おじいさんはおもいました。
おじいさんは、また、自分じぶんむらをさして帰途きとについたのであります。途中とちゅうで、れかかりました。そして、とうとうゆきってきました。
それでなくてさえ、のよくないおじいさんは、どんなにこまったでしょう。いつのまにか、どこがはらだやら、小川おがわだやら、みちだやら、ただ一めんしろえてわからなくなりました。
おじいさんは、つえをたよりに、とぼとぼとあるいてゆきました。そのうちに、かぜつよいて、がまったくれてしまったのです。
まだ、むらまでは、二あまりもありました。あさくるときには、小鳥ことりのさえずっていたはやしも、ゆきがかかって、おともなく、うすぐらがりのなかにしんとしていました。
かわいそうに、おじいさんは、もうつかれて一まえあるくことができなくなりました。だれかこんなときに、とおりかかって、自分じぶんむらまでつれていってくれるようなひとはないものかといのっていました。
ゆきは、ますますってきました。おじいさんは、ゆきうえにすわって、をつぶりました。そして、一しんいのっていました。
すると、たちまちあちらにあたって、がやがやと、なにかはなうようなにぎやかなこえがしました。おじいさんは、なんだろうとおもって、けてそのほうますと、それは、みごとにも、ほおずきのようなちいさな提燈ちょうちんいくつとなく、たくさんにつけて、それをばみんながにふりかざしながら、くらよるなか行列ぎょうれつをつくってあるいてくるのです。
「なんだろう……。」と、おじいさんは、をみはりました。その提燈ちょうちんは、あかに、あおに、むらさきに、それはそれはみごとなものでありました。
おじいさんは、このとしになるまで、まだこんなみごとな行列ぎょうれつたことがなかったのです。これはけっして人間にんげん行列ぎょうれつじゃない。魔物まものか、きつねの行列ぎょうれつであろう。なんにしても、自分じぶんはおもしろいものをるものだと、おじいさんはよろこんで、ていました。
すると、その行列ぎょうれつは、だんだんおじいさんのほうちかづいてきました。それは、魔物まもの行列ぎょうれつでも、また、きつねの行列ぎょうれつでもなんでもありません。かわいらしい、かわいらしいおおぜいの子供こども行列ぎょうれつなのでありました。
その行列ぎょうれつはすぐ、おじいさんのまえとおりかかりました。子供こどもらは、ぴかぴかとひかる、一つの御輿みこしをかついで、あとのみんなは、その御輿みこし前後ぜんご左右さゆういて、に、に、提燈ちょうちんりかざしているのでした。おじいさんは、だれが、その御輿みこしなかはいっているのだろうとおもいました。
このとき、この行列ぎょうれつは、おじいさんのまえで、ふいにまりました。おじいさんは不思議ふしぎなことだとおもって、だまってていますと、今日きょうまちみちまよって、公園こうえんまえいていた子供こどもが、れつなかからはしました。
「おお、おまえかい。」といって、おじいさんはよろこんでこえをあげました。
「おじいさん、ぼくむかえにきたんです。」と、その子供こどもはいいますと、不思議ふしぎなことには、いままで五つか、六つばかりのちいさな子供こどもが、たちまちのうちに十二、三のおおきな子供こどもになってしまいました。
「さあ、みんな、おじいさんを御輿みこしなかれてあげるのだ。」と、子供こどもは、おおきなこえ命令めいれいくだしますと、みんなは、に、に、っている提燈ちょうちんりかざして、
「おじいさん、万歳ばんざい!」
万歳ばんざい!」
「おじいさん、万歳ばんざい! 万歳ばんざい!」
みんなが、口々くちぐちさけびました。そして、おじいさんを御輿みこしなかにかつぎこみました。
「さあ、これから音楽おんがくをやってゆくのだ。」と、れい子供こどもは、また、みんなに命令めいれいをしました。
たちまち、いいふえ音色ねいろや、ちいさならっぱのや、それにじって、歩調ほちょうわし、音頭おんどをとる太鼓たいこおとこって、しんとしたあたりがきゅうににぎやかになりました。
おじいさんは、うれしくて、うれしくて、たまりませんでした。そっと輿こしなかからのぞいてみますと、あの子供こどもが、みんなを指揮しきしています。そして、みんなが口々くちぐちに、なにかのうたをかわいらしいこえでうたいながら行儀ぎょうぎよく、あかあおむらさき提燈ちょうちんりかざしてあるいてゆきました。
――一九二一・一一作――
 

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