すると、どんな
気のたった
女でも、おじいさんのしてくれたしんせつに
対して、お
礼をいわずにはいられませんでした。
「それは、ほんとうにお
世話さまでした。さあおまえは、こちらへおいで。」と、
母親は、おじいさんに
礼をいいながら、
子供の
手を
引っ
張りました。
「さあ、お
母さんとゆくのだ。」
おじいさんは、
目に
涙をためて、
子供を
見送りながらいいました。
子供は、
振り
返りながら、
母親に
連れられてゆきました。そして、その
姿は、だんだんあちらに、
人影に
隠れて
見えなくなりました。おじいさんは、ぼんやりと、しばらく
見送っていましたが、もういってしまった
子供をどうすることもできませんでした。また、いつかふたたびあわれるということもわからなかったのです。
おじいさんは、
自分の
用事のことを
思い
出しました。そして、また
自分のゆくところをたずねて、
町の
中をうろついていました。ちょうど、
年寄りのまい
子のように、おじいさんはうろうろしていたのであります。
「ああ、
今日は、もう
遅い。それに
降りになりそうだ。
早く、
村へ
帰らなければならん。」と、おじいさんは
思いました。
おじいさんは、また、
自分の
村をさして
帰途についたのであります。
途中で、
日は
暮れかかりました。そして、とうとう
雪が
降ってきました。
それでなくてさえ、
目のよくないおじいさんは、どんなに
困ったでしょう。いつのまにか、どこが
原だやら、
小川だやら、
道だやら、ただ一
面真っ
白に
見えてわからなくなりました。
おじいさんは、つえをたよりに、とぼとぼと
歩いてゆきました。そのうちに、
風が
強く
吹いて、
日がまったく
暮れてしまったのです。
まだ、
村までは、二
里あまりもありました。
朝くるときには、
小鳥のさえずっていた
林も、
雪がかかって、
音もなく、うす
暗がりの
中にしんとしていました。
かわいそうに、おじいさんは、もう
疲れて一
歩も
前に
歩くことができなくなりました。だれかこんなときに、
通りかかって、
自分を
村までつれていってくれるような
人はないものかと
祈っていました。
雪は、ますます
降ってきました。おじいさんは、
雪の
上にすわって、
目をつぶりました。そして、一
心に
祈っていました。
すると、たちまちあちらにあたって、がやがやと、なにか
話し
合うようなにぎやかな
声がしました。おじいさんは、なんだろうと
思って、
目を
開けてその
方を
見ますと、それは、みごとにも、ほおずきのような
小さな
提燈を
幾つとなく、たくさんにつけて、それをばみんなが
手に
手にふりかざしながら、
真っ
暗な
夜の
中を
行列をつくって
歩いてくるのです。
「なんだろう……。」と、おじいさんは、
目をみはりました。その
提燈は、
赤に、
青に、
紫に、それはそれはみごとなものでありました。
おじいさんは、この
年になるまで、まだこんなみごとな
行列を
見たことがなかったのです。これはけっして
人間の
行列じゃない。
魔物か、きつねの
行列であろう。なんにしても、
自分はおもしろいものを
見るものだと、おじいさんは
喜んで、
見ていました。
すると、その
行列は、だんだんおじいさんの
方へ
近づいてきました。それは、
魔物の
行列でも、また、きつねの
行列でもなんでもありません。かわいらしい、かわいらしいおおぜいの
子供の
行列なのでありました。
その
行列はすぐ、おじいさんの
前を
通りかかりました。
子供らは、ぴかぴかと
光る、一つの
御輿をかついで、あとのみんなは、その
御輿の
前後左右を
取り
巻いて、
手に、
手に、
提燈を
振りかざしているのでした。おじいさんは、だれが、その
御輿の
中に
入っているのだろうと
思いました。
このとき、この
行列は、おじいさんの
前で、ふいに
止まりました。おじいさんは
不思議なことだと
思って、
黙って
見ていますと、
今日、
町で
道に
迷って、
公園の
前で
泣いていた
子供が、
列の
中から
走り
出ました。
「おお、おまえかい。」といって、おじいさんは
喜んで
声をあげました。
「おじいさん、
僕が
迎えにきたんです。」と、その
子供はいいますと、
不思議なことには、いままで五つか、六つばかりの
小さな
子供が、たちまちのうちに十二、三の
大きな
子供になってしまいました。
「さあ、みんな、おじいさんを
御輿の
中に
入れてあげるのだ。」と、
子供は、
大きな
声で
命令を
下しますと、みんなは、
手に、
手に、
持っている
提燈を
振りかざして、
「おじいさん、
万歳!」
「
万歳!」
「おじいさん、
万歳!
万歳!」
みんなが、
口々に
叫びました。そして、おじいさんを
御輿の
中にかつぎこみました。
「さあ、これから
音楽をやってゆくのだ。」と、
例の
子供は、また、みんなに
命令をしました。
たちまち、いい
笛の
音色や、
小さならっぱの
音や、それに
混じって、
歩調を
合わし、
音頭をとる
太鼓の
音が
起こって、しんとしたあたりが
急ににぎやかになりました。
おじいさんは、うれしくて、うれしくて、たまりませんでした。そっと
輿の
中からのぞいてみますと、あの
子供が、みんなを
指揮しています。そして、みんなが
口々に、なにかの
歌をかわいらしい
声でうたいながら
行儀よく、
赤・
青・
紫の
提燈を
振りかざして
歩いてゆきました。
――一九二一・一一作――