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雪の国と太郎(3)_小川未明童話集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334
 

きみぼく家来けらい


ようやくその野原のはらとおりこして、かなたのもりなかから学校がっこう屋根やねえるむらはずれにさしかかりますと、いままでどこかにかくれていた太郎たろうしてきて、まっさきになってあるいてきたおつきあたりました。おつ不意ふいをくらってたじたじとなってゆきなかたおれてしまいました。
ぼくはなんにもしないじゃないか。」
と、おつゆきなかたおれながら、うらめしそうに太郎たろうかお見上みあげていいました。太郎たろうはじっとゆきなかたおれて自分じぶん見上みあげているおつ見下みおろしながら、
「なんで、せんだってぼくあそぼうといってんだときにこなかったのだい。きみぼく家来けらいになるといったんだろう。」
と、太郎たろうはくるくるした黒目くろめひからしていいました。
そのあいだに、こうへいていなどは、すきをうかがってしてはや学校がっこうもんはいってしまおうと、あちらにしました。太郎たろうは、そのほうをしりめにかけて、あえておうとはいたしませんでした。
「あ、ぼくわるかったのだから堪忍かんにんしておくれ。」
と、おつは、わなわなとふるえながら太郎たろうにたのんでいました。
「きっとかい。ぼく家来けらいになったのなら、かえりにっておれ。いっしょにかえるから、うそをいったら、今度こんどひどいめにあわしてやるから。」
と、太郎たろうはいって、自分じぶんさきになって学校がっこうほうへゆうゆうとあるいてゆきました。そのあとからおつはついてゆきました。
その午後ごご授業時間じゅぎょうじかんわって学校がっこうからかえるときに、こうへいていは、いちはやくのがれてかえることができました。けれど、おつだけは太郎たろう約束やくそくをしたのでげてかえることができずに、ついに太郎たろうといっしょにかえることになりました。
おつ太郎たろうがどんなことをいいすかしらんとこころのうちでおそれていました。太郎たろうおつをふりいて、
きみうみへいってみようよ。」
といいました。
うみには一ばかりありました。ひろ野原のはらしてたかいおかをのぼってそれをりなければ、うみることができなかったのです。
うみなんかおもしろくないじゃないの。」
と、おつはさも迷惑めいわくそうにいいました。
きみふゆゆきっているうみたことがあるかい。それはさかんだぜ。毎晩まいばんゴーゴーといっておとこえるだろう。ぼくうみながらハモニカをくんだぜ、ぼくといっしょにゆこう。」
と、太郎たろうはくるくるしたをみはりました。
「だってかえりがおそくなると、おっかさんにしかられるもの。うみなんかとおくて、ゆくのはいやだ。」
おつごえしていいました。
「ほんとうにいやだなら、いじめてやるぞ。」
と、太郎たろう雪路ゆきみちうえって、おそろしいけんまくをしてみせておつをおどしました。おつおおきなこえをあげてしました。ちょうどそこへ、おつったおじいさんがとおりかかったもので、
「おい、けんかをしていかんぞ。」
といったので、太郎たろうひとりであちらへいってしまい、おつはおじいさんにれられ、そのうちかえりました。

ゆきうえのハモニカ


そのくるこうおつへいていはまたあつまって相談そうだんいたしました。
「おい、きみわるいんじゃないか、いちばんさききみげたんだぜ。」
ぼくじゃない、いちばんさきしたのはきみだぜ。」
かれらは、たがいにまえのことをいいあらそいましたが、ついに、もうこれからは、かならずいっしょになって、太郎たろうてきとしてたたかわなければならぬということにめました。
にん子供こどもらはそのからたいんで隣村となりむらかけていって太郎たろうとけんかをしました。しかし先方せんぽうはいつも太郎たろう一人ひとりでありました。太郎たろうれいおおきなをみはってみちうえって、こちらをています。するとこっちでは、四にん子供こども口々くちぐち太郎たろうをめがけてののしって、ゆきにぎってはげつけました。おおぜいに一人ひとりですから、とおへだててゆきげるのでは、いつも太郎たろう雪球ゆきだまおおくあたりました。そして四にん子供こども凱歌がいかをあげてむらかえりました。
学校がっこうへゆくときも四にんはそろって太郎たろうにあったら、必死ひっしとなってたたか覚悟かくごでありましたから、太郎たろうは、それをてとってか容易ようい手出てだしをいたしませんでした。
こうなるとこうおつへいていらは、まったく自分じぶんらがったものとおもいました。そしてうちかえると四にんはそろって太郎たろう征伐せいばつするのだといってかけました。しまいには四にんのほかにも年下とししたの七つ八つぐらいの子供こどもが三にんも四にんあとからついてきたのであります。しかるに太郎たろうのほうはいつも一人ひとりでありました。太郎たろうみちのまんなかって勇敢ゆうかんたたかいました。こちらは、たとえおおぜいであったけれど、だれひとりとしてすすんでいって太郎たろうちをしようというほどの勇気ゆうきのあるものはなかったのであります。
あるのこと、こちらのおおぜいのものは、隣村となりむらほうかけてゆきました。けれど、いつもそこにって、こちらをいておおぜいをむかえている太郎たろう姿すがたえなかったのであります。
「どうしたんだろうね、太郎たろうえないよ。」
と、こうがいいました。
「どこかにかくれているんだろう。」
と、おつがいいました。そして、いつまでっていても太郎たろう姿すがたえませんでした。そのはそれでかえりましたけれど、またくるになっても太郎たろう姿すがたえませんでした。学校がっこうへいっても、またうちかえってからかけていっても、ついに太郎たろう姿すがたえなかったのです。
子供こどもらは口々くちぐちに、どうしたのだろうといっていました。するとそこへ、隣村となりむらからなれないおとこひと子供こどもらのあそんでいるところへやってきて、
「おい、おまえがたは、よく太郎たろうとけんかをしたが、太郎たろうは、もういなくなったぞ。」
そのおとこひとはいいました。子供こどもらはかお見合みあって、
小父おじさん、太郎たろうくんは、どこへいったのだい。」
そのなれないおとこきました。
「どこへいったかわしらない、太郎たろうとおくへいってしまったんだ。」
と、そのおとこはいいました。
子供こどもらは不思議ふしぎでならなかったのです。しかるに一じつあめってそのくるはいい天気てんきになったときに、ゆきうえかがみのようにかたこおって、どこまでもわたってゆくことができました。むら子供こどもらは、ちょうど日曜日にちようびであったから、みなうちつれって、うたいながらゆき野原のはらえて、はるかかなたにうみえるほうまでやってきたのでした。すると、かなたには灰色はいいろうみ物悲ものがなしくえて、そのおきほうくらくものすごかったのでありました。
「ああ、これは太郎たろういていたハモニカだ。こんなところにちていたよ。」
といって、おつゆきうえちていたニッケルせいのハモニカをひろげました。それはいつか太郎たろういているのをおぼえがあるのでした。
「どうして、こんなところにちていたろうね。」
と、へいがいいました。
「きっと太郎たろううみのあっちへいって、自分じぶん味方みかたれてくるんだろう。そして、かたきうちをするんだろう。そうするとおそろしいな。」
と、おつがいいました。みんな、おそれをいだいてうみほうをながめました。そしてこえをあげてむらほうかえりました。さむ北風きたかぜいている。

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