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三、練習始動(3)
日期:2025-06-27 16:42  点击:262

  全員がそろったところで、清瀬は口を開いた。

「だいたいの練習計画を作った。レベル分けしたいから、五千メートルを本気で走ってタ

イムをとる」

  仕事が速いな、と走は感心したが、双子はもちろん文句を言った。

「朝も走ったのに、また走るの?」

「もう疲れちゃったよ。なんか脚のつけ根が痛いし」

  股こ関かん節せつ痛つうを訴えたジョージのセリフを、清瀬は聞き逃さなかった。

「ひどく痛むのか」

「ううん、それほどじゃないけど」

「走ることにまだ慣れていないだけか、フォームが悪いか、もとから関節が弱いか。どれ

だろう」

  清瀬は心配そうにジョージのまえにかがみ、脚のつけ根を親指でそっと揉んだ。

「ちょっとちょっと、ハイジさん。そんなとこ触るのやめてよ」

  ジョージがくすぐったそうに身をよじる。

「シューズのせいじゃないかと思うんですけど」

  と、走は指摘した。「それ、バッシュでしょ?」

  清瀬は、「ほんとだ」と言って立ち、全員の足もとを確認した。

「どうしてきみたちは、バスケット用やら、ただのスニーカーやらを履いてるんだ。走る

気あるのか?」

「だって、これしかないんだもん」

  と、ジョージとおそろいのバッシュを履いたジョータが、王子の背後に隠れながら言

う。王子はというと、安売り量販店で買ったらしき、「運動靴」としか形容しようのない

シューズを履いている。

「ランニング用のシューズを買え」

  清瀬は厳命を下した。

「買いました」

  と、ムサと神童がスポーツ用品店の袋を掲げてみせる。少し遅れて、ユキも後ろ手に隠

し持っていた新しいシューズを出した。

「今朝走ってみたら、けっこうおもしろかったから」

「渋ってたわりに、やる気になってるじゃねえか」

  と、ニコチャンが茶々を入れた。

「よし」

  と清瀬はうなずく。「あとのものも、近いうちに足に合ったシューズを買うように。で

きれば、タイムを計る機能のついた時計も」

「走と同じのがいいな」

  ジョータが走の手首を覗きこんだ。「かっこいいよね、これ。ナイキかあ」

  走の腕時計は、プラスチック素材の丸みのある流線型で、機能も充実しているし、とて

も軽い。ランナーのための時計だ。走はこれまで使ってきたもののなかで、一番気に入っ

ていた。

「色違いもある。ストップウォッチ機能のほかに、測定したタイムをどんどん合計してい

く機能もあって……」

  走の説明を、ジョータとジョージがふんふんと聞く。

「バイトを増やさないと」

  と神童が言ったとたん、

「麻雀同様、アオタケの住人は今後、バイトも禁止だ」

  と清瀬は重々しく告げた。「働いてる場合か?  練習に専念しろ」

「じゃあ、どうやってシューズや時計を買うんだよ」

  と、キングが抗議する。

「ついでに、ウェアも買っておけ」

  清瀬は平然としたものだ。「高校時代のジャージやらスウェットやら、王子に至っては

ジーンズじゃないか。そんなのを着てたら、汗の乾きが悪くて体を冷やす。練習のときは

必ずタオルと着替えを用意して、汗をかいたらすぐに替えるようにすること」

「だから、バイトもせずにどうやって買えばいいんだっつうの」

  キングが再び みついた。

「なに、練習に明け暮れていれば、遊ぶ時間はなくなるからね。仕送りだけでも、金なん

てすぐに貯まる」

「えぇー!」

  と、またもや抗議の声が上がった。

「庭先でなにをごちゃごちゃやってるんだ」

  母屋の玄関が開き、名目上は監督ということになっている大家が出てきた。飼い主の登

場に、それまで寝そべって目をつむっていたニラが、うれしそうに尻尾を振る。

「金の心配ならいらん」

  大家は一同を見まわした。「ハイジから聞いたぞ。本気で箱根を目指すなら、後援会に

頼んで、必要なものはそろえてやる」

「後援会?  うちの大学に、そんなものがあるんですか」

  ユキがいぶかしげに問うと、

「これから作る」

  と大家は言った。だめだこりゃ、とニコチャンがつぶやく。

「さあ、トラックに行くぞ」

  清瀬にうながされ、普段着のまま場所を移すことになった。散歩だと思ったのか、ニラ

も一緒についてくる。

  大学のグラウンドでタイムを計るのだろう。走はそう考えていたのだが、清瀬は反対方

向へどんどん歩いていった。目的地はどうやら、仙川を越えたところにある区営グラウン

ドのようだった。

「ハイジさん、どうして大学のグラウンドを使わないんです」

  走は不審に思って尋ねた。「大学のほうがアオタケから近いし、整備されてるのに」

「グラウンドは、いろんな運動部やサークルが使ってるんだ。俺たちの番がまわってくる

まで、百万年ぐらいかかる」

「だって、陸上部なのに?  グラウンドを使う優先権がないんですか」

「なにごとにも、序列というものがあってね」

  清瀬はひんやりした口調で言った。つまり、だれからも存在を認識されていないほどの

弱小部だということだ。いたずらに清瀬を刺激しないよう、走はおとなしく黙ることにし

た。

  コースのところどころから、草が顔を覗かせてはいたが、区営グラウンドには一周四百

メートルのれっきとしたトラックがあった。

  清瀬は、練習の段取りを簡単に説明した。毎回、本格的な練習の前後に、一時間ぐらい

かけて流して走ること。ストレッチをすること。協力してマッサージをしあうこと、など

だ。


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06/29 01:21