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三、練習始動(11)
日期:2025-06-27 16:45  点击:253

「あれは八や百お勝かつの娘さんだな」

  と清瀬が言った。

「どうして知ってるんです?」

  女の子の横顔に気を取られていた走は、隣を走る清瀬に視線を移した。

「アオタケの住人の飯を作るために、俺はずっと、この商店街で食材の買いつけをしてる

んだ。顔見知りにもなるだろう」

「じゃあ、あの子としゃべったこともあるんですか?」

「『立派な葉がついた大根ですね』『二百円のお釣りです』ぐらいはな」

  清瀬は口端で笑った。「気になるのか、走」

「いえ、べつに」

  視線を前方に戻した。自転車は人混みに見え隠れしつつ、まだ駅のほうを指して走って

いる。

「これのおかげで、僕たちはちょっとした有名人だよ」

  神童は、Tシャツの裾を引っ張ってみせた。「毎日、列を作ってこの通りを走ってるし

ね。ハイジさんと顔見知りだった商店主たちが、声をかけてくれるんだ。『あのボロア

パートに住んでる学生さんだろ。おもしろいことをはじめたんだなあ』って」

「大家さんは、この商店街にある碁会所の常連だしな」

  と清瀬も言った。「『アオタケの住人たちが、箱根駅伝を目指している』と吹聴しま

くってるそうだ」

  やめる、と気軽に言いだせないよう、計画に地域住民をも巻きこむ作戦だろう。着々と

外堀を埋める清瀬と大家の手腕に、走は感心してしまった。一番に参加を表明しただけ

あって、神童も率先して広報活動に励むつもりらしい。箱根駅伝へ向かう流れに、のんき

でお気楽な住人たちは、どんどん乗せられていっている。大丈夫なのかな、と走は不安を

感じた。だが、竹青荘の外の人々が、箱根駅伝を目指す走たちに興味を示していること

は、やはりうれしく心強かった。

「ここのところずっと、私たちがジョッグをしていると、彼女が現れるんです」

  ムサが指でちょいちょいと、自転車に乗った八百勝の娘を示した。「彼女のお目当て

は……」

  つられて、走とニコチャンとユキは自転車のさらに前方に視線をやった。そこを走って

いたのは……。

「双子!?」

  走は驚きの声を上げた。

「の、どっちだ!?」

  と、ニコチャンもうなる。ムサは肩をすくめた。

「さあ、それはわかりません」

「どっちもなにも、見た目は同じだし」

  とユキが冷静に指摘する。

  恋の予感だ、と走は思った。並んで走るジョータとジョージは、まったく気づいていな

いようだが。早速、ちゃんと風呂に入るように忠告してあげないといけない。

  とりあえず、朝晩ジョッグに励む竹青荘の住人たちが、商店街の人々のおなじみになり

つつあるのは、たしかなことのようだった。


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06/29 05:51