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六、魂が叫ぶ声(3)
日期:2025-06-27 16:53  点击:205

「おまえらがいいなら、俺はべつにかまわねえよ」

  ニコチャンはテレビと聞いても浮かれることなく、大人の余裕を見せる。漫画以外には

興味のない王子も、

「僕もべつに。どうでもいいや、テレビは」

  と、なげやりな返事をした。

「おまえなあ、女子アナに会えるかもしれないんだぞ、女子アナに!」

  興奮気味のキングに言われても、

「よく知らないから」

  と王子はつまらなそうだ。

「いや、予選会に女子アナは来ないでしょ」

「わかんないよー。あの局でスポーツ関係の女子アナっていったら、だれかな」

  などと、ジョータとジョージはかしましくしゃべりだす。清瀬は女子アナ談義には加わ

らず、沈黙を守りつづける走とユキに話を振った。

「多数決では、すでに結論が出ているわけだが。きみたちの意見も聞いておこうか」

「もう決まっちゃったんでしょう」

  走はため息をついた。「いやだって言うだけ無駄です」

「ねえねえ、走はなんでいやなの?」

  とジョージが首をかしげた。「テレビに出れば、親も喜ぶ女の子にモテるで、いいこと

づくしじゃない」

「それは単に、そうなるといいな、っていうジョージの願望だろ」

  走はぼそぼそと反論を試みる。ユキがめずらしく、皮肉な響きを交えぬ声音で言った。

「親を喜ばせたいやつばかり、ってわけでもないんだよ」

  つぶやきに苦いものを感じ取って、室内は一瞬静まりかえる。視線が自分に集中してい

ることに気づき、ユキはすぐに、いつもの調子を取り戻した。

「みんな、目立とう精神だけは旺盛だな。まあ、決まったならしかたがない。俺も従うに

やぶさかではないよ」

  予選会でカメラが密着すると聞いて、葉菜子は「大変!」と叫んだ。

「横断幕を書き直さなきゃ!」

「なに、横断幕って」

  と走は尋ねる。走と清瀬は竹青荘の台所で、葉菜子が持ってきた売れ残りの野菜を、箱

から出しているところだった。

「予選会に応援にいくんだって、商店街のみんなは張り切っていてね。うちの父と左官屋

さんが、横断幕を作ったの。でも、寛政の寛って、画数が多いでしょ。左官屋さんが、

『勝ちゃん、どうしよっか。字がつぶれちまうよ』って。そしたら父が、『そういうとき

は、シャレで乗り切りゃいいんだよ』って……」

  布には赤いペンキで、「大器完成!  がんばれKANSEI大!」と大書されたのだ。

「それは、ちょっと……」

  走は言葉に詰まった。

「かなり馬鹿っぽいよねえ」

  葉菜子はため息をつく。清瀬は里芋の皮を きながら、また声もなく笑っていた。

「でも、よかったね。みんなの頑張りが認められて、取材されるんだもん。すごいことだ

よ」

  そのぶん、注目される機会が増える。いいことばかりではないだろう。走は黙って段

ボール箱をつぶした。

「あれ、葉菜ちゃん来てたんだ」

「テレビの話、聞いた?」

  双子が顔を出し、台所はにぎやかになった。

「聞いたよ。予選会にもみんなで応援にいくし、番組も録画するからね」

  台所の椅子に座って、葉菜子は楽しそうに双子としゃべりだす。

「いいのか?」

  今度は掌に載せた豆腐を切りながら、清瀬が走に囁いた。鍋に味噌を溶き入れていた走

は、

「なにがですか」

  と憮然として聞き返す。

「いやべつに」

  と清瀬は言った。「勝田さん、夕飯を食べていったら」

  住人たちが続々と台所にやってきて、葉菜子と一緒に食卓を囲んだ。囲みきれなかった

ものは、卓袱台を出して床に座った。

  その日のおかずは、里芋の煮物と豚肉の冷しゃぶだった。

「そろそろ、冷しゃぶじゃなくてすき焼きを食いたい季節だよなあ」

「牛肉でね!」

  と言いながら、ジョータとジョージは茹でた豚肉を猛然と自分の皿に取る。葉菜子の

持ってきた野菜は、大根おろしや紅葉おろしになって、彩りを添えた。

「そうだ」

  と葉菜子が箸を置き、足もとの鞄を探った。「今日は野菜のほかにも、お土産があるん

です」

  取りだされたのは、大量のアルバムだった。双子が受け取り、紙製の表紙をめくる。

「夏合宿の写真だ!」

「しかも、全員分ある!」

  表紙にはそれぞれ、住人たちの名前が書いてあった。走も食事を中断し、葉菜子の字で

名が書かれたアルバムを眺めた。全員で映っている写真と、各人のハイライトシーン。写

真は丁寧に分類され、撮った順番に整然とアルバムに収まっていた。

「焼き増しして、構成を考えていたら、遅くなっちゃったんですけど」

  葉菜子は申し訳なさそうに言ったが、ずいぶん手間をかけてくれたことがわかる。みん

なは感激して礼を述べた。

  台所ではひとしきり、それぞれのアルバムが行き交った。写真を見ていると、夏の記憶

が鮮明によみがえってくる。

「いまになってみると、楽しかったよね、合宿」

「あー!  東体大の監督の写真まである!」

「それ、隠し撮りです」

  と葉菜子が笑った。写真には、竹刀を持って仁王立ちする、オールバックの男が映しだ

されていた。

「むちゃくちゃこわかったよな、東体大の監督」

「ハイジとはまたべつの意味で、あれは鬼だよ、鬼」


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06/29 15:55