「ままま」と、私を呼ぶ。
「ま」がひとつ多い。
私を追いかけてくる。おぼつかない足取りで、よたよたと。
あなたは一歳になった。
毎日よく泣き、よく笑う。よく転び、でもきちんと起き上がる。
重い頭をぐらぐらゆらしながら、私にしがみついてくる。
「ままま」
お腹がすいた、とあなたは言う。
私はうなずいて、お米をラップに包んでぎゅうぎゅう握る。
あなたの大好きなふりかけを入れるのも忘れない。
おにぎりをこしらえる私の服を、あなたはぎゅうぎゅう握る。
「ままま」
いただきます、とあなたは言う。
小さい手を拭いて、おにぎりを口元に持っていく。
ふふふっ、とあなたは笑って思いっきりほおばる。
顔中にお米粒がついても気にしない。
食べる、食べる、食べる。時々麦茶もすする。
外はずいぶん雪が降っている。
世界はお米に埋もれたように真っ白だ。
道行く人々が分厚いコートを着込んで白い息を吐く。
私とあなたは、今日はどこへも出かけない。白い雪を見ながら、あなたを膝にのせて、おにぎりをいただく。
「ままま」
お米だらけの柔らかいほっぺをくっつける。
部屋の中はとても温かい。炊きたてのご飯のいい匂いもする。
お米粒をぬぐってあげると、あなたはくすぐったそうにふふふっと笑うので、私もつられてふふふっと笑った。
いつかあなたはその足で外の世界に出ていくのだろう。
頭もぐらぐらゆれない。しっかり前を見て、時に泣き、時に笑うのだろう。
真っ白い雪が降っても、照りつける太陽の日でも。
あなたは私の手を離れ、力強く生きてゆくのだろう。
そのうち、「ま」がひとつ多いことにあなたは気づく。
「ママ」になって「お母さん」になっても、あなたが私の服を握りしめなくなっても、私は炊きたてのご飯でおにぎりを握ろう。
あなたの大好きなふりかけも忘れない。優しいお米の匂いに鼻をひくひくさせるあなたを見て、一緒にふふふっと笑いながら。