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猫を抱いて長電話46
日期:2020-08-11 10:39  点击:243
 二度目のデビュー?
 
 唐突だが、私は蠍座《さそりざ》生まれである。これがどうも厄介な星座であり、キイワードは再生と死、無か有か、革命、執着、沈黙、挑戦、秘密、洞察、復讐《ふくしゆう》……などという、わけのわからない言葉ばかり。まあ、要するにネクラの底力と、ネクラの絶望とが同居しているようなものらしい。
 初めて『知的悪女のすすめ』というエッセイ集を出したのが一九七八年、二十五歳の時。挑戦とか野心といったものはまったくなく、ただ、思いつくままに書いた本で、それがベストセラーになるなど考えもしなかった。
 TV出演やインタビュー、講演などの依頼が殺到し、断ったほうがいいのか、はたまた全部受けて立ったほうがいいのか、悩みに悩んだあげく、結局、全部、受けて立った。これも蠍座生まれの特徴らしい。オール・オア・ナッシングの精神である。
 それまで�ただの人�であったのに、女性週刊誌で「私の嫌いな有名人、ベストテン」の中の第三位に入選(?)したり、バーゲンで九八〇円のTシャツをあさっていると、そばで「ねえ、ねえ、あの人、小池真理子じゃない?」などと女の子たちが囁《ささや》いている声がしたり、「あなたのお書きになるエッセイは読んでいて腹がたちます。だからすぐに捨ててしまいました。恥を知りなさい、恥を」などと書かれた手紙を読者から受け取ったりするようになったのもそのころである。
 雑誌の対談で野坂昭如さんと初めて会った時も、開口一番、「あなたが悪名高き小池さんですか」と言われた。「そーなんですよ」と笑って応じて、話がすぐに盛り上がった。私は私の悪名をおもしろがっているところもあった。
 そんな時代……名前だけが一人歩きしていった時代にどっぷり浸りつつも、私はいつかはケリをつけねばなるまいな、と思っていた。蠍座の特徴、その二。挑戦の精神である。
 ケリをつけるそのつけ方は、すべて一切合切のTV、講演を断ることに始まった。あまり極端に過ぎたかもしれないが、これも蠍座の特徴、引っ込む時は引っ込む……の徹底した精神に基づくものと思われる。
 初めて長編小説を書き出したのは、一九八四年ころ。集英社の担当編集者だったN氏に励まされ、書き直しを命ぜられたのもたった一度で済んだ。それが翌八五年に刊行された『あなたから逃れられない』というミステリ長編である。�悪名高き�エッセイを出してから七年後。二度目のデビューは、初めのデビューと違って静かなスタートを切った。騒々しいことが苦手な私にとって、これはとても嬉しいことだった。
 こじつけかもしれないけれど、私のこれまでの人生は、占星術師をうなずかせるに足る、まこと、蠍座らしいものであったように思う。再生と死。挑戦。無か有か。さて、今後、どのように変遷を繰り返すのか、当事者はおそるおそる見守るばかりである。
 

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