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らんの花 (3)
日期:2023-08-31 11:17  点击:296
 ちょうど、春先はるさきのことでした。友人ゆうじんたずねると、
「これは、故郷くにからおくってきた、らんのはなけたのだが、んでみないか。」と、れてしてくれました。
「らんのはな?」
わたしは、ちゃわんのなかをのぞくと、しろいらんのはながぱっとひらいて、わすれがたいかおりがしたのです。これをた、わたしむねはとどろきました。
きみ、これは、どこのらんかね。」
故郷くにやまにあるらんだよ。そこは、南傾斜みなみけいしゃふかたにになっていて、らんのはなのたくさんあるところだ。けわしいから、めったにひとがいかないが、はるいくと、じつにいいにおいがするそうだ。」
ともだちは、らんについて、無関心むかんしんのもののごとくただ故郷こきょうやまうつくしさを讃美さんびして、きかせたのであります。
わたしがそのやまへ、ともだちにもけずに、らんをさがしにいったのは、すぐのちのことです。じつをいえば、矛盾むじゅんじますが、はなにあこがれるよりは、一万円まんえんあたいするらんをさがすためだったのです。

やまには、まだところどころにゆきのこっていました。しかし五がつなかばでしたから、木々きぎのこずえは、生気せいきがみなぎって光沢こうたくび、あかるいかんじがしました。たにには、ゆきがあって、わずかにそこながれるみずおとがしたけれど、そのおとくだけで、ながれの姿すがたえませんでした。そしてゆきえたがけには、ふきのとうがめばえ、岩鏡いわかがみはなうつくしくいていました。
とうげつとやまおくにもやまかさなりかえっていました。それらの山々やまやまは、まだふゆねむりからめずにいます。このへん終日しゅうじつひとかげないところでした。ただ、ともぶ、うぐいすのこえがしました。かわらひわがいていました。まれに、やまばとのこえがきこえてきます。
「ああ、いいかおりが……らんのにおいだ!」
しろはなくらんのあるところへきたというよろこびが、つよわたし勇気ゆうきづけました。しかしながら、このとき、しろくもが、たに見下みおろしながらいきました。
はなは、かみさまにせるためにいているのだ。はなあいするなら、らんをってはいけない。」
わたしは、はっきりとくも言葉ことばみみにきくことができました。けれど、わたしは、それにしたがわなかったのです。いしからあしはずすと、谷底たにそこ墜落ついらくして、ひだりりました。この不具ふぐになったをごらんください。そして、いまでも、おもしますが、そのときのくも姿すがたがいかに神々こうごうしくて、ひかっていたか。ひと思想しそうも、なにかに原因げんいんするものか、以来いらいわたしは、地上ちじょうはなよりは、大空おおぞらをいくくもあいするようになりました。
 

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