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猟師と薬屋の話(1)
日期:2023-08-31 11:18  点击:307

 

 むら一人ひとり猟師りょうしが、んでいました。もう、あきもなかばのことでありました。あるらないおとこがたずねてきて、
わたしは、たび薬屋くすりやでありますが、くまのいがほしくてやってきました。きけば、あなたは、たいそう鉄砲てっぽう名人めいじんであるということですが、ひとつおおきなくまをって、きもをってはくださらないか。そのかわり、おかねはたくさんしますから。」といいました。
猟師りょうしは、貧乏びんぼうをしていましたから、これはいい仕事しごとにはいったとおもいました。
「そんなら、くまをさがしにやまへはいってみましょう。」
「どうぞ、そうしてください。このごろ、くまのいが、品切しなぎれでこまっているのですから、をよくいますよ。」と、薬屋くすりやはいいました。
これをきいて、猟師りょうしは、よろこんでけました。
むらから、西にしにかけて、たか山々やまやまかさなりっていました。むかしから、そのやまにはくまや、おおかみがんでいたのであります。
猟師りょうしは、仕度したくをして、鉄砲てっぽうをかついでやまへはいってゆきました。きりのかかったたかねえたり、ザーザーとながれる谷川たにがわをわたって、おくおくへとみちのないところをわけていきますと、ぱらぱらとからだりかかってきました。
猟師りょうしは、しばらくあるいてはみみをすまし、また、しばらくあるいてはみみをすましたのです。そして、あたりに、猛獣もうじゅうのけはいはしないかと、ようすをさぐったのでした。
そのうちに、まえに、おおきな足跡あしあとつけました。
「あ、くまの足跡あしあとだ!」と、猟師りょうしおもわずさけびました。
これこそ、てんあたえてくださったのだ。はやくちとめてうちへしょってかえろう。そうすればきもは、あのたび薬屋くすりやたかれるし、にくは、むらじゅうのものでたべられるし、かわかわで、おかねにすることができるのだ。こうおもいながら、かたから、鉄砲てっぽうをはずして、弾丸たまをこめて、その足跡あしあと見失みうしなわないようにして、ついてゆきました。
裏山うらやまは、くもれて、あきがあたたかそうにらしていました。そして、二、三十メートルかなたに、おおきなとちのがあって、じゅくしたがぶらさがっていましたが、そのしたくろいものがしきりにうごいているのをつけたのです。
「いた! いた!」と猟師りょうしは、ひくこえでいいました。そして、じっとづかれないようにかげにかくれて、ようすをうかがいました。その一ぴきおおきく、その一ぴきちいさかったのです。ちいさいのは、まだまれてから日数ひかずのたたないぐまで、おおきいのは、ははぐまでした。二ひきは、いま自分じぶんたちが、人間にんげんにねらわれているということもしらずに、たのしくあそんでいたのであります。ぐまは、おちちみあきたか、それとも、とちのをたべあきたか、おかあさんの背中せなかったり、また、むねのあたりにびついたりしました。ははぐまは、それをうるさがるどころか、かわいくて、かわいくて、しかたがないというふうに、ぐまのするままにしていたが、ときどき、自分じぶんでひっくりかえって、ぐまをうえきあげ、ぐまがぴちぴちするのをよろこんでいたのでした。
猟師りょうしは、鉄砲てっぽうのしりをかたにつけて、ねらいをさだめました。名人めいじんといわれるだけ、まんに一つもちそんじはないはずです。そして、がねをおろしかけて、ふとつのをやめてしまいました。
「あのははぐまをころしたら、どんなにぐまがかなしがるだろう。そして、ばんから、あたたかなふところにいてもらってねむることができない。かわいそうな殺生せっしょうをばしたくない。」
こういって、猟師りょうしは、つのをやめて、また、出直でなおしてこようとうちへもどろうとしたのであります。
その途中とちゅうで、らない猟人かりゅうどあいました。その猟人かりゅうどもこれからやまへ、くまをちにゆこうというのです。そのおとこは、傲慢ごうまんでありまして、なにも獲物えものなしにかえ猟人かりゅうどますとはなさきわらいました。
わたしは、これまでやまへはいって、からうちかえったことはない。こんどもこうしてやまへはいれば、きつねか、おおかみか、おおぐまをしとめて、土産みやげにするから、どうかわたし手並てなみていてもらいたいものだ。」と、大口おおぐちをききました。

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