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恐怖王-妖术(2)

时间: 2021-08-29    进入日语论坛
核心提示:「もうお暇(いとま)します。おそくなると家(うち)で心配しますから」 辞退をすると、「家とおっしゃって、奥様もいらっしゃらな
(单词翻译:双击或拖选)

「もうお(いとま)します。おそくなると(うち)で心配しますから」
 辞退をすると、
「家とおっしゃって、奥様もいらっしゃらない癖に」
 と忽ち逆襲だ。
「マア、およろしいではございませんか。このお酒お口に合いませんでしょう。今ね、今お口に合うのを、あたし持って参りますからね」
 夏子は少しよろめく様に立って、手で「待っていらっしゃいよ」と合図しながら、一方のドアから出て行った。
 蘭堂は酔わぬといっても、()いられた強い洋酒に、頭の中が少し熱っぽくなって、この立派な邸宅での思いがけぬもてなしが、いや、そればかりではない、昼間からの空中文字、砂文字、ゴリラ男までが、何かこう本当でない、悪夢でも見ていた様な気持ちになって来るのであった。
 彼が、そうしてボンヤリと白い卓布に頬杖(ほおづえ)をついていた時、突然、これも(また)悪夢の様に、どこかの部屋から、鋭い女の悲鳴が聞えて来た。
「オヤ」と思って、聞耳を立てると、
「助けて! 助けて! 大江先生助けて!」
 という、恥も外分(がいぶん)もない叫び声は、確かに夏子未亡人だ。
 捨てては置けぬ。蘭堂は夢の中の様に立上って、廊下へ駈け出した。廊下のはしには、女中達が目白押しにかたまって進みも()せず、かたえの(へや)を指さしている。明かに救いを求める叫び声は、そこのドアの中から漏れているのだ。
 彼はいきなりドアを開いて、室内に飛込んだ。
「畜生ッ、貴様まだこんな所にいたんだな」
 思わず叫んで、有り合う椅子の背を掴んだ。
 ゴリラだ。ゴリラ男が、夏子の上に馬乗りになって、その喉をしめつけている。夏子は、空色のワンピースの裾を破って、夢中にもがきながら抵抗している。
「邪魔するな。お前、あっちへ行ってろ」
 賊は猩々(しょうじょう)の様に真赤になって、恐ろしい目で蘭堂を睨みつけ、途切れ途切れに(うな)った。
()せ。止さぬと、叩き殺してくれるぞ」
 蘭堂は椅子を振り上げて、ゴリラの頭上から打ちおろす身構えをした。
「早く、早く、こいつを叩きつけて」
 夏子が、みだらに顔を歪めて、息も絶え絶えに叫ぶ。
「ウヌ、これでもか」
 蘭堂は、振り上げた椅子を、力まかせに叩きつけた。
「ギャッ」
 という、けだものの悲鳴。
 ゴリラは肩先をやられて、やっと夏子の上から立上ったが、今度は蘭堂に向って、白い大きな歯を()みならし、恐ろしいうなり声を発しながら、全く大猿の恰好で飛びかかって来た。

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