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影男-蜘蛛丝(1)

时间: 2022-02-16    进入日语论坛
核心提示:蜘蛛(くも)の糸「さあ、覚悟をしろ。いまきさまたちの首を、この鎌(かま)でちょん切ってやるからな。ワハハハハハ、首が宙に舞い
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蜘蛛(くも)の糸


「さあ、覚悟をしろ。いまきさまたちの首を、この(かま)でちょん切ってやるからな。ワハハハハハ、首が宙に舞い上がるぞ。サーッと血の噴水だぞ。どっちを先にちょん切ろうかな。篠田! きさまだッ。美与子はよく見ていろ。おまえの大好きな男の首が、宙に飛ぶんだ。それから、それから、ゆっくりと、おまえのほうを料理してやるからな」
 執念の鬼と化した川波良斎は、夢中に毒口をたたきながら、大鎌をクルクルと頭上にふりまわした。その巨大な刃が、遠くの常夜灯のにぶい光を受けて、キラキラとものすごくきらめいた。
 そのとき、あわや大鎌が篠田青年の首に向かってふりおろされるかと見えたとき、とほうもない奇怪事がおこった。
 大鎌が良斎の手をはなれて、ふわふわと宙に浮いたのである。まるで生あるもののように、やみの大空に向かって、スーッと昇天したのである。
 良斎はびっくりして、両手をひろげて、大鎌に飛びつこうとしたけれど、及ばなかった。鎌はあざ笑うように、ひょいひょいと空中におどった。「ここまでおいで」と、気ちがい良斎をバカにした。
 神が残虐殺人者を罰しているのかもしれない。広い庭園の木立ちに包まれたあき地、空には星もないやみ夜、遠くの常夜灯のほのあかりの中に奇跡がおこったのだ。しかし、気ちがい良斎には神を恐れる心もなかった。妻を奪われたふくしゅうにこりかたまり、恐れを感じている余裕さえないように見えた。かれは昇天する鎌はあきらめて、地上に投げ出してあった第二の武器を取ろうとした。巨大な草刈りばさみを取ろうとした。
 すると、不思議、不思議、その草刈りばさみが、また、ひょいひょいとおどりだしたのである。おどりながら、スーッと空中にのぼっていく。
「ちくしょうめ、ちくしょうめ!」
 良斎はのろいの叫び声を発した。おどり上がった。草刈りばさみをつかもうとして、気ちがい踊りを踊った。だが、空中の大ばさみは、キラキラ光る二枚の刃をチョキンチョキンと動かしながら、あざ笑っている。空中を左右に浮遊して、いまにも手が届きそうになると、ひょいと飛び上がる。また下がってきて、スーッと昇天する。
 気ちがい良斎の気ちがい踊りが、はてしなくつづいた。地上の二つの首も、この不思議な光景を、驚きの目で見つめていた。
 やがて、大鎌も草刈りばさみも、思うぞんぶん良斎をからかったあとで、ついにやみの空中に消え去ってしまった。良斎は地上にしりもちをついて、ぐったりとなっていた。気ちがい踊りに疲れはてたのだ。
 すると、そのとき、またしても不思議なことがおこった。やみの木立ちの中に、一匹の巨大なクモが現われたのだ。
 全身まっくろで、目と口のところだけ三角の小さな穴があいている。手足は四本しかない。そいつが立ち上がって、歩いているのだ。手から黒い糸がくり出される。おしりではなくて、手の中からクモの糸が出る。その糸で、気ちがい良斎のからだを、グルグルまきつけているのだ。
 良斎はしりもちをついたままぼんやりしていたので、やみの中の黒い怪物を見わけることができなかった。二本足で立ち上がった巨大なクモが、かれのまわりをグルグル回っているのを、少しも気づかなかった。
 そのうちに、良斎のからだが、グイグイと、一方の大きな木の幹のほうへひっぱられていった。黒い絹糸のようなもので、かれのからだを十重二十重(とえはたえ)にまきつけて、それで木の幹のほうへひっぱられるので、痛さに、知らず知らずじりじりとそのほうへいざっていく。そして、ついには、太い幹にしばりつけられたかっこうになってしまった。
 巨大なクモと見えたのは、全身まっくろな衣装をつけ、頭部も黒覆面で包んだ影男であった。かれは川波の屋敷に忍びこんで、二つの首の怪事を見ると、すべての事情を察して、やみの木陰にかくれていた。そこへ気ちがい良斎が大鎌と草刈りばさみを持って現われたのだ。影男はその大鎌と草刈りばさみの柄に、そっと黒い絹糸を結びつけておいて、その糸玉を持って、そばの大木の上によじのぼり、その上から、絹糸で二つの武器をつり上げたのだ。
 強くて太い絹糸にはさまざまの用途がある。影男は隠形術(おんぎょうじゅつ)七つ道具の一つとして、長い糸玉をいつも身につけていた。それが、この暗中奇術の役にたったのである。
 かれは二つの首切り道具を樹上に隠してしまうと、スルスルと幹を伝い降りて、こんどは絹糸の玉を持って、しりもちをついている良斎のまわりをグルグル回りはじめた。そして、良斎のからだに絹糸を巻きつけ、それを木の幹のほうへグイグイと引きしめて、とうとう幹にしばりつけてしまった。
「ワハハハ、どうです、このクモの糸は。絹糸でも何十回と巻きつければじょうぶなものですよ。川波さん、もうあきらめるんですね。ふたりを助けてやりなさい。土埋めにして、これだけ苦しめたら、もうじゅうぶんですよ」
 影男は、そのまっくろな姿で、良斎の前に立ちはだかっていた。
 やみの中の黒坊主だから、なかなか見わけられない。しかし、そいつが人間の声でしゃべったので、良斎にもやっと事情がわかってきた。

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