「ごめんね。好きな人いるんだ」。
高校3年の卒業式。3年間思いを寄せていた人に思い切って告白したら、10秒かからず振られました。絶望がとめどなく押し寄せ、涙は夜遅くになってもおさまりません。すると今まで黙っていた父が突然「さやか、明日朝早くでかけるから今日はもう寝ろ」とだけ言いました。次の日、朝の5時に出発し、どこへ行くとも告げられず空港に着いたかと思えば、飛行機に乗り北海道に。すぐさまレンタカーを走らせます。家を出てもう9時間以上経ったでしょうか。
「さあ、着いたよ」目の前の光景に、私は感動で言葉が出ませんでした。太平洋を望む断崖上に立つ真っ白な灯台とどこまでも続く青い海が目に飛び込んできます。この展望台は、室蘭の「地球岬」という場所らしく、まさにここは地球の丸さを実感できる場所です。まるで宇宙から地球を眺めているかのようです。優しい声で父が言います。
「父さんも昔ね、大失恋したときこの場所に来たんだ。やっぱり地球って丸いんだなって思っていたら自然と悲しみが消えたんだ。地球が丸いのはね、悲しみや辛さを吸収してくれるためなんじゃないかな。そして海や大地のエネルギーをそっと分けてくれる。父さんはそう思うよ」。父に言われて気づきました。確かに私のあれだけの悲しみは、自然と穏やかに消えています。さらに、さわやかな風が心の中にまで吹いているのを感じました。
父の仕事のため、地球岬の滞在時間は30分ほどで、そこから夜中遅くまでかかって帰宅し、父と私の旅行はかなりの強行スケジュールで終わりました。あれから17年以上経ちます。失恋だけに関わらず、生き方全てにおいてその30分が今の私を作り出していることは間違いありません。
「失敗しても大丈夫。この丸い地球が優しく支えてくれている。エネルギーを分けてくれている」父の教えは今日も私を前向きに動かしてくれます。