日语童话故事 日语笑话 日语文章阅读 日语新闻 300篇精选中日文对照阅读 日语励志名言 日本作家简介 三行情书 緋色の研究(血字的研究) 四つの署名(四签名) バスカービル家の犬(巴斯克威尔的猎犬) 恐怖の谷(恐怖谷) シャーロック・ホームズの冒険(冒险史) シャーロック・ホームズの回想(回忆录) ホームズの生還 シャーロック・ホームズ(归来记) 鴨川食堂(鸭川食堂) ABC殺人事件(ABC谋杀案) 三体 失われた世界(失落的世界) 日语精彩阅读 日文函电实例 精彩日文晨读 日语阅读短文 日本名家名篇 日剧台词脚本 《论语》中日对照详解 中日对照阅读 日文古典名著 名作のあらすじ 商务日语写作模版 日本民间故事 日语误用例解 日语文章书写要点 日本中小学生作文集 中国百科(日语版) 面接官によく聞かれる33の質問 日语随笔 天声人语 宮沢賢治童話集 日语随笔集 日本語常用文例 日语泛读资料 美しい言葉 日本の昔話 日语作文范文 从日本中小学课本学日文 世界童话寓言日文版 一个日本人的趣味旅行 《孟子》中日对照 魯迅作品集(日本語) 世界の昔話 初级作文 生活场境日语 時候の挨拶 グリム童話 成語故事 日语现代诗 お手紙文例集 川柳 小川未明童話集 ハリー・ポッター 新古今和歌集 ラヴレター 情书 風が強く吹いている强风吹拂
返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 黑柳彻子 » 正文

トットチャンネル(37)

时间: 2018-05-30    进入日语论坛
核心提示:狐《きつね》のお面 どういう風の吹《ふ》きまわしか、トットのところに、ガヤガヤじゃない、単独のテレビの仕事が来た。それま
(单词翻译:双击或拖选)
 狐《きつね》のお面
 
 どういう風の吹《ふ》きまわしか、トットのところに、ガヤガヤじゃない、単独のテレビの仕事が来た。それまで、ラジオにしても、テレビにしても、仕事、といったら、必ず、同期生と一緒《いつしよ》に指名されるのに、この日は、トット一人だった。(でも、行っても、どうせ、おろされるかも知れないし……)と、割に呑気《のんき》に出かけたトットは、台本を渡《わた》されて、とび上った。(大変!)それは、司会のようなもので、カメラにむかって、NHKの近くの小学校の生徒のやる、歌とか踊《おど》りとか、コーラスとかを、紹介《しようかい》する、という難かしそうな仕事だった。担当のディレクターは、顔の色が黒く、肥《ふと》っていて、まゆ毛が濃《こ》くて、ちょっと、ダルマのようだ、と、トットは思った。バンカラで有名な人だった。その人は、トットを、スタジオの床《ゆか》に、絆創膏《ばんそうこう》で×じるしをした上に立たせると、大声で説明した。
「いいかい、この×が、君の立位置《たちいち》! そしてその、第一カメラが、ふつうは、一《いち》カメというが、これが君の前に来る。カメラの上の赤いランプが、パッ! とつく。ついたら、君が写ってることだよ。だから、しゃべる。いいね? で、この赤いライトが消えるまで、君は写ってる。セリフは、台本通り。じゃ、リハーサル、やってみよう!」カメラは、二台だった。トットは、台本に書いてあることを、大急ぎで、暗記した。カメラが来た。赤いランプがつく。
「みなさん、今晩は! きょうは、小学校の生徒さんの、楽しい歌とか、踊りとかを、御紹介しましょう。まず、麹町《こうじまち》小学校三年生の○□△×君の、歌です」赤いランプが、消える。○□△×君が歌いだす。二カメが○□△×君を写し始めた。一カメも大急行で○□△×君のところに行く。
 その間に、トットは、いそいで足許《あしもと》に置いた台本を開く。
(えーと、次は、四谷《よつや》小学校四年生の、×▽○□ちゃんの踊り……)歌が終る。カメラが、トットの前に、すっとんで来る。赤ランプがつく。トットがいう。
「次は、四谷小学校四年生の×▽○□ちゃんの踊りです」
 ……こんな風に、六人くらい紹介すると、ちょうど予定の時間で、「では、さようなら」で番組は終ることになっていた。
 思いがけないほど、万事スムースにいった。ダルマ・ディレクターは、満足気に、
「うん! 大丈夫《だいじようぶ》! その調子! いいぞ!」
 と、大声で叫《さけ》び、リハーサルは終った。
 スタジオの中の、少し高い台の上に置いたテレビジョンは�モニター�といって、リハーサルも本番も、カメラで撮《と》ったものが写る、しかけになっていた。トットの顔も、そこにクローズ・アップに写っているようだったけど、写っているとき、そっちを見ると、横目に写っちゃって、叱《しか》られるといけないから、トットは見ないように我慢《がまん》した。カメラ・リハーサルが、もう一度あり、とうとう本番になった。夕方、五時半からの、子供も見る番組だった。ナマ本番というのは、時間キッチリに始まるので、どんなことがあっても、待ってはくれない。メーキャップさんが、茶色っぽいスティックを、スポンジで顔に塗《ぬ》ってくれ、トットが普段《ふだん》は、つけてない、口紅も、つけさせられた。ちょっと紫色《むらさきいろ》っぽい口紅だったけど、写ると、これが自然に見える、という話だった。
 ところで、その日は、偶然《ぐうぜん》、パパとママが一緒に銀座に行く用があった。そこで、
「じゃ、銀座のあと、どうせなら、トットのテレビをパパとママが喫茶店《きつさてん》で見て、そのあと、トットと、そこで逢《あ》って、三人で食事でもしよう……」という約束《やくそく》になっていた。まだ、個人でテレビを持ってる人は、ほとんどなくて、トットの家も、勿論《もちろん》、なかった。求人広告に「求む家政婦。当方テレビジョン有り」という、今では、嘘《うそ》のような時代だった。喫茶店は、NHKと道路をへだてた、むかいの、フロリダ、と決まった。
 本番というのは、恐《おそ》ろしく、ドキドキするもので、F・D(フロアー・ディレクター)が、
「二十秒前! 十五秒前! 十秒前!」
 と、始まりの、秒よみ[#「秒よみ」に傍点]を叫び出すと、途端《とたん》に手先が冷たくなり、頭がボーッとして、心臓が音をたて始め、いくら唾《つば》を飲みこんで、のどを下に押《お》しても、心臓が押し上げるのか、のどが、口の外に、出ようとする。ましてや「……九、八、七、六……」と近づいてくると、もう、目の前が暗くなる。「五……四……」……もう、絶対に、時計は止ってくれない。
「三……二……キュー!!(合図)」
 始まった。
 トットは、それでも、目をしっかりと見開いて、目の前の赤ランプがつくと、すぐ、いった。
「みなさん、今晩は! きょうは、小学校の生徒さんの、楽しい歌とか、踊りとかを、御紹介しましょう。まず麹町小学校三年生の○□△×君の、歌です」
 赤ランプが消えた。(ああ、よかった。少なくとも、はじまりは、うまくいった……)深呼吸してから、いそいで、しゃがんで台本を見る。(えーと、次の学校は、四谷小学校、四年生の……)
 口の中で何度かくり返しているうちに、カメラが来る、赤ランプがつく。しゃべりだす……。
 こんな風に、まん中くらいまで、うまくいった。ところが、思いがけないことが起った。
 それは、小学校の男の子が二人で、一枚の羽織《はおり》を着て、二人《ににん》羽織というのをやっている時だった。羽織を着た子の背中に、もう一人の子が入っていて、前の子の口の中に、羽織から出ている後《うしろ》の子の手が、おまんじゅうを入れようとするんだけど、なかなか、うまく、口の所にいかなくて、喰《た》べるほうの子は、指にかみついたり、おまんじゅうがコロコロ、ころがっちゃったり……。始めは、わざとして笑わせてたんだけど、本当に、うまくいかなくなって、しまいには、顔の出てる子が、「ちがうよ! もっと、右!!」とか、後の子にいい始め、後の子はあせるもので、ますます、おまんじゅう持った手が頭にぶつかったり、鼻を押したりして、もう、いつ終るか、わからなくなって来た。トットは、(どうなることか!)と、ハラハラして、見ていた。突然《とつぜん》、トットの目の前に、赤ランプが、パッ!! と、ついた。
「ウッ!」
 ……トットは、びっくりした顔でカメラを見た。生徒が、やっている間に、ちゃんと台本を見て、次の子の学校名と名前などを、暗記しておかなくては、いけないのだった。それなのに、おまんじゅうに気を取られていて、見るのを忘れていたのだった。何を次に言えばいいのか、思い出せなかった。台本は、足許にあるけど、もし、取ってみようとすれば、体を、沈《しず》ませなければならない。そうしたら、カメラから、姿が消える……。(ああ、どうしよう……)馴《な》れてる人なら、こんなときに、
「さあ、次は、なんでしょう? 楽しみね、じゃ、どうぞ!!」
 なんて、胡麻化《ごまか》すことも出来るけど、何しろ、カメラと真正面に相対したのは、今日が生まれて初めてのトットだもの、どうしようもなかった。(誰《だれ》かが助けてくれるか?)と、思ったけど、F・Dの人は、もう、次の子供のほうに合図しに行ってしまって、あるのは、目の前のカメラだけ。カメラさんの姿は、カメラにかくれて見えなかった。(ああ! 神様……!)それでも、赤ランプは、消えない。
「赤いランプがついてるうちは、写ってるんだからな!!」
 ダルマ・ディレクターの声が耳に残っている。
(どうしよう……)
 トットは、この間じゅう、ずーっと、困った顔のまま、だまって、カメラのほうを見ていた。
(もう、消えてくだされば、いいのに……)
 でも、赤ランプは、ついている。
(こんなに孤独《こどく》な、ものなの?)
 トットは、悲しくなった。それと、自分が悪いんだけど、このまま、こうやって、カメラと、にらめっこしてて、どうなるのかしら……?
 恐ろしい沈黙《ちんもく》。こういうときの時間が、どのくらいのものか、見当もつかなかった。まるで、五分も経《た》ったか、と、トットは思った。とうとう、トットは、どうしていいか、わからなくて、顔は、カメラにむけたまま、少し、うつむいて、小声で、いった。
「いやんなっちゃう……」
 次の瞬間《しゆんかん》、赤ランプが、パッ!! と消えた。トットは、凄《すご》い、いきおいで、しゃがんで、台本を、めくった。そのあと、トットが、どんなに挽回《ばんかい》しようと頑張《がんば》ったか、それは、誰の目にも、はっきりした。
 それでも、とにかく時間が来れば、番組は終る。(ああ、終った……)と思った時だった。頭の上のガラス箱《ばこ》のドアを蹴《け》とばすように出て来たダルマ・ディレクターの、世にも恐ろしい声が! 本当に、雷《かみなり》とは、このことか、と思えるような大きな声が、上から落ちてきた。
「お前!! 社会人なんだぞ! なんだ? �いやんなっちゃう�とは!! もう女学生じゃねえんだから。社会人だってこと、忘れるんじゃ、ねーぞ!!」
 トットが、どんな絶望的な、暗い気持で、パパとママの待つ喫茶店にむかったかは、いつまでも、ふるえちゃって、止まらない手と、目に一杯《いつぱい》たまった涙《なみだ》が、証明しているようだった。トットが入っていくと、いつものように、ママは、美しい顔で、笑いかけた。ママの黒いベレー帽《ぼう》が、黒いレインコートと、よくマッチしていた。パパが、ママのことを自慢《じまん》するのも、もっともだ、と、トットは、しょげながらも思った。トットは、うつむいたまま、聞いた。
「見た?」
「見たわよ」ママがいった。
 パパも、いった。「見たよ」
 パパとママにとっては、娘《むすめ》の顔を、初めて、はっきり[#「はっきり」に傍点]、ブラウン管で見たことになるのだった。トットは、恥《はず》かしいのと、がっかりとで、
(どんな顔に写ってた?)
 とは、聞けなかった。だから、思い切って、こう、聞いた。
「間違《まちが》ったとこ……わかったでしょ?」
 ママは、ちょっと考えてから、いった。
「間違ったとこ? 気がつかなかったけど……」
「本当?」
 トットは、少し元気になった。
 ママは、うなずいた。
「ええ、気がつかなかったけど……」
 トットは、自分に良いほうに解釈した。
(そうか! もしかすると、あれは、NHKのスタジオの中だけのことで、放送には、あそこが写らなかったのかも、知れない……)
 さっきまでの心配が、どんどん消えていくようだった。トットは、うれしくなった。
(わかんなかったのなら、他《ほか》は、うまくいったんだもの、わあー!!)
 トットは、顔を、あげかけた。そのとき、不意に、ママが、いった。
「それは、いいけど、どうして、あなた、狐のお面、かぶって出たの?」
「え?!」
 トットは、ママの言ってる意味が、わからなかった。ママは、気がねしてるような風に、いった。
「そうなの。どうして、狐のお面かぶって、ああいう司会みたいの、やるのかなあ、ってパパとも話したんだけど……」
「狐の、お面?!……」
 トットは、何が驚《おどろ》いた、といって、こんなに驚いたことは、なかった。だって、メーキャップだってして、顔は、ちゃんと出して、やったんだもの。トットは、強くいった。
「お面なんて、かぶってないわ!!」
 でも、ママは、はっきりした口調で、いった。
「あら、やだ……。かぶってたじゃない……」
 トットの、初めての、クローズ・アップは、狐のお面の顔としか、見えなかった。こんな、ショックなことは、なかった。
 つまり、その頃の、白黒のテレビの画像は、そんなだった。白と黒のコントラストが強かったし、ブラウン管には、横線が沢山《たくさん》、走ってる。そんなわけで、口は、横に、どんどん長くなって、切れ長の口[#「切れ長の口」に傍点]になり、鼻の先は白いので前に飛び出し、目は、顔の白にくらべて、黒目が強調されちゃって、つり上り……(どっちにしても、緊張《きんちよう》で、つり上っては、いたけれど……)おまけに、肌《はだ》の感触《かんしよく》が出ないから、顔は、固い。その上、髪《かみ》の毛は、真黒[#「真黒」に傍点]で、柔《やわ》らか味は、全くなくて、ギザギザだ。……そんなわけで、家族には、いつも120点をつけるママですら、「狐のお面」と信じて疑わない風に、写っていたのだ、とわかった。
 将来、テレビが、カラーになり、例えば、赤ちゃんの顔が、ピンク色で、生き生きと輝《かがや》き、ポチャポチャと柔らかそうで、よだれまで、はっきり見えて、もう、手を出して、さわってみたくなるまでに技術が進むだろう、なんてことを、このときのトットは、想像することも出来なかった。
 ただ、今度、また大写しで出ることがあったら、狐のお面をかぶっているようにだけは写らないと、いい! トットには、それだけだった。
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%