七時のニュースを告げるテーマ音楽が聞こえてきて、ハリーの胃がざわめいた。きっと今夜だ――ひと月も待ったんだから――今夜に違いない。
スペインの空港バゲージ係のストが二週目に入り、空港に足止めされた夏休みの旅行客の数はこれまでの最高を記録し――
「そんなやつら、わしなら一いっ生しょう涯がいシエスタをくれてやる」
アナウンサーの言葉の切れ目で、バーノンおじさんが牙きばを剥むいた。それはどうでもよかった。外の花壇かだんで、ハリーは胃の緊きん張ちょうが緩ゆるむのを感じていた。何事かが起こったのなら、最初のニュースになったはずだ。死とか破は壊かいとかのほうが、足止めされた旅行客より重要なんだから。
ハリーはゆっくりフーッと息を吐はき、輝かがやくような青空を見上げた。今年の夏は、毎日が同じだった。緊張、期待、束つかの間の安あん堵ど感かん、そしてまた緊張が募つのって……しかも、そのたびに同じ疑問がますます強くなる。どうして、まだ何も起こらないのだろう。
ハリーはさらに耳を傾けた。もしかしたら、マグルには真相がつかめないような、何か些細ささいなヒントがあるかもしれない――謎なぞの失しっ踪そう事じ件けんとか、奇き妙みょうな事故とか……。しかし、バゲージ係のストの後は、南東部の旱かん魃ばつのニュースが続き「隣となりのやつに聞かせてやりたいもんだ」バーノンおじさんが大声を出した。「あいつめ、朝の三時にスプリンクラーを回しくさって」、それからサレー州でヘリコプターが畑に墜つい落らくしそうになったニュース、何とかいう有名な女優が、これまた有名な夫と離婚りこんした話「こんな不潔ふけつなスキャンダルに、誰が興きょう味みを持つものですか」ペチュニアおばさんは口ではフンと言いながら、あらゆる雑誌ざっしでこの記事を執しつ拗ように読み漁あさっていた。
空が燃えるような夕焼けになった。ハリーは眩まぶしさに目を閉じた。アナウンサーが別のニュースを読み上げた。
――最後のニュースですが、セキセイインコのバンジー君は、夏を涼すずしく過ごす新しい方法を見つけました。バーンズリー町のパブ、「ファイブ・フェザーズ」に飼かわれているバンジー君は、水上スキーを覚えました メアリー・ドーキンズ記者が取材しました。
ハリーは目を開けた。セキセイインコの水上スキーまでくれば、もう聞く価値のあるニュースはないだろう。ハリーはそっと寝返りを打って腹這はらばいになり、肘ひじと膝ひざとで窓の下から這はい出す用意をした。