数センチも動かないうちに、矢や継つぎ早ばやにいろいろな出来事が起こった。
鉄てっ砲ぽうでも撃うったようなバシッという大きな音が、眠たげな静せい寂じゃくを破って鳴り響ひびいた。駐ちゅう車しゃ中の車の下から猫ねこが一匹サッと飛び出し、たちまち姿をくらました。ダーズリー家の居間からは、悲鳴ひめいと、悪あく態たいをつく喚わめき声と、陶器とうきの割れる音が聞こえた。ハリーはその合図を待っていたかのように飛び起き、同時に、刀を鞘さやから抜くようにジーンズのベルトから細い杖つえを引き抜いた――しかし、立ち上がり切らないうちに、ダーズリー家の開いた窓に頭のてっぺんがぶつかった。ガツーンと音がして、ペチュニアおばさんの悲鳴がいちだんと大きくなった。
頭が真っ二つに割れたかと思った。涙なみだ目めでよろよろしながら、ハリーは音の出どころを突き止めようと、通りに目を凝こらした。しかし、よろめきながら、なんとかまっすぐに立ったとたん、開け放はなった窓から赤あか紫むらさきの巨大な手が二本伸びてきて、ハリーの首をがっちり締しめた。
「そいつを――しまえ」バーノンおじさんがハリーの耳もとで凄すごんだ。「すぐにだ 誰にも――見られない――うちに」
「は――放して」ハリーが喘あえいだ。
二人は数秒間揉もみ合った。ハリーは上げた杖を右手でしっかり握り締めたまま、左手でおじさんのソーセージのような指を引っ張った。すると、ハリーの頭のてっぺんがひときわ激はげしく疼うずき、とたんにバーノンおじさんが、電気ショックを受けたかのようにギャッと叫さけんで手を離はなした。何か目に見えないエネルギーがハリーの体から迸ほとばしり、おじさんはつかんでいられなくなったらしい。
ハリーはゼイゼイ息を切らして、紫陽花あじさいの茂しげみに前のめりに倒れたが、体たい勢せいを立て直して周まわりを見回した。バシッという大きな音を立てた何ものかの気配はまったくなかったが、近所のあちこちの窓から顔が覗のぞいていた。ハリーは急いで杖をジーンズに突つっ込こみ、何食なにくわぬ顔をした。