「気持のよい夜ですな」バーノンおじさんは、レースのカーテン越しに睨にらみつけている向かいの七番地の奥さんに手を振ふりながら、大声で挨あい拶さつした。「いましがた、車がバックファイアしたのを、お聞きになりましたか わしもペチュニアもびっくり仰ぎょう天てんで」
詮せん索さく好きのご近所さんの顔が、あちこちの窓から全員引っ込むまで、おじさんは狂きょう気きじみた恐ろしい顔でにっこり笑い続けた。それから、笑顔が怒りのしかめ面つらに変わり、ハリーを手招きした。
ハリーは二、三歩近寄ったが、おじさんが両手を伸ばして再び首絞くびじめに取りかかれないよう用心し、距離を保って立ち止まった。
「小僧こぞう、一いっ体たい全ぜん体たいあれは何のつもりだ」バーノンおじさんのがなり声が怒りで震ふるえていた。
「あれって何のこと」
ハリーは冷たく聞き返した。通りの右、左と目を走らせながら、あのバシッという音の正体が見えるかもしれないと、ハリーはまだ期待していた。
「よーいドンのピストルのような騒音を出しおって。我が家のすぐ前で――」
「あの音を出したのは僕じゃない」ハリーはきっぱりと言った。
今度はペチュニアおばさんの細長い馬うま面づらが、バーノンおじさんのでっかい赤ら顔の隣となりに現れた。ひどく怒った顔だ。
「おまえはどうして窓の下でこそこそしていたんだい」
「そうだ――ペチュニア、いいことを言ってくれた 小僧、我が家の窓の下で、何をしとった」
「ニュースを聞いてた」ハリーがしかたなく言った。
バーノンおじさんとペチュニアおばさんは、熱いきり立って顔を見合わせた。
「ニュースを聞いてただと またか」
「だって、ニュースは毎日変わるもの」ハリーが言った。
「小僧、わしをごまかす気か 何を企たくらんでおるのか、本当のことを言え――『ニュースを聞いてた』なんぞ、戯たわ言ごとは聞き飽あきた おまえにははっきりわかっとるはずだ。あの輩やからは――」
「バーノン、だめよ」ペチュニアおばさんが囁ささやいた。バーノンおじさんは声を落とし、ハリーに聞き取れないほどになった。「――あの輩のことは、わしらのニュースには出てこん」
「おじさんの知ってるかぎりではね」ハリーが言った。