ダーズリー夫妻ふさいは、ほんのちょっとの間ハリーをじろじろ見ていたが、やがてペチュニアおばさんが口を開いた。
「おまえって子は、いやな嘘うそつきだよ。それじゃあ、あの――」
おばさんもここで声をひそめ、ハリーはほとんど読どく唇しん術じゅつで続きの言葉を読み取らなければならなかった。
「ふくろうたちは何してるんだい おまえにニュースを運んでこないのかい」
「はっはーん」バーノンおじさんが勝ち誇ほこったように囁ささやいた。「参まいったか、小僧こぞう おまえらのニュースは、すべてあの鳥どもが運んでくるということぐらい、わしらが知らんとでも思ったか」
ハリーは一いっ瞬しゅん迷った。ここで本当のことを言うのはハリーにとって辛つらいことだ。もっとも、それを認めるのが、ハリーにとってどんなに辛いかは、おじさんにもおばさんにもわかりはしないのだが。
「ふくろうたちは……僕にニュースを運んでこないんだ」ハリーは無表情な声で言った。
「信じないよ」ペチュニアおばさんが即座そくざに言った。
「わしもだ」バーノンおじさんも力んで言った。
「おまえがへんてこりんなことを企たくらんでるのは、わかってるんだよ」
「わしらはバカじゃないぞ」
「あ、それこそ僕にはニュースだ」
ハリーは気が立っていた。ダーズリー夫妻ふさいが呼び止める間まも与えず、ハリーはくるりと背を向け、前庭の芝生しばふを横切り、庭の低い塀へいを跨またいで、大おお股またで通りを歩き出した。
厄やっ介かいなことになったと、ハリーにはわかっていた。あとで二人と顔つき合わせたとき、無礼ぶれいのつけを払うことになる。しかし、いまはあまり気にならなかった。もっと差さし迫せまった問題のほうが頭に引っかかっていたのだ。
あのバシッという音は、誰かが「姿すがた現あらわし」か「姿くらまし」をした音に違いない。屋敷やしきしもべ妖よう精せいのドビーが姿を消すときに出す、あの音そのものだ。もしや、ドビーがプリベット通りにいるのだろうか いまこの瞬しゅん間かん、ドビーが僕を追つけているなんてことがあるだろうか そう思いついたとたん、ハリーは急に後ろを振り返り、プリベット通りをじっと見つめた。しかし、通りにはまったく人気ひとけがないようだった。それに、ドビーが透とう明めいになる方法を知らないのは確かだ。