ハリーはどこを歩いているのかほとんど意識せずに歩き続けた。このごろ頻ひん繁ぱんにこのあたりを往いき来きしていたので、足がひとりでに気に入った道へと運んでくれる。数歩歩くごとに、ハリーは背後を振り返った。ペチュニアおばさんの、枯かれかけたベゴニアの花の中に横たわっていたとき、ハリーの近くに魔法界の誰かがいた。間違いない。どうして僕に話しかけなかったんだ なぜ接せっ触しょくしてこない どうしていまも隠れてるんだ
イライラが最さい高こう潮ちょうになると、確かだと思っていたことが崩くずれてきた。
結局あれは、魔法の音ではなかったのかもしれない。ほんのちょっとでいいから、自分の属ぞくするあの世界からの接触がほしいと願うあまり、ごくあたりまえの音に過か剰じょう反はん応のうしてしまっただけなのかもしれない。近所の家で何かが壊こわれた音だったかもしれない。そうではないと自信を持って言い切れるだろうか
ハリーは胃に鈍にぶい重苦しい感覚を覚えた。知らず知らずのうちに、この夏中ずっとハリーを苦しめていた絶ぜつ望ぼう感かんが、またしても押し寄せてきた。
明日もまた、目覚まし時計で五時に起こされるだろう。「日にっ刊かん予よ言げん者しゃ新しん聞ぶん」を配達してくるふくろうにお金を払うためだ。――しかし、購こう読どくを続ける意味があるのだろうか このごろは、一面記事に目を通すとすぐ、ハリーは新聞を捨ててしまった。新聞を発行している間ま抜ぬけな連中は、いつになったらヴォルデモートが戻もどってきたことに気づいて、大おお見み出だしに謳うたうのだろう。ハリーはその記事だけを気にしていた。
運がよければ、他のふくろうが親友のロンやハーマイオニーからの手紙も運んでくるだろう。もっとも、二人の手紙がハリーに何かニュースをもたらすかもしれないという期待は、とっくの昔に打ち砕くだかれていた。