玄げん関かんの明かりは点ついていた。ハリーは杖つえをジーンズのベルトに挟はさみ込んで、ベルを鳴らし、ペチュニアおばさんがやってくるのを見ていた。おばさんの輪りん郭かくが、玄関のガラス戸のさざなみ模様で奇き妙みょうに歪ゆがみながら、だんだん大きくなってきた。
「ダドちゃん 遅おそかったわね。ママはとっても――とっても――ダドちゃん どうしたの」
ハリーは横を向いてダドリーを見た。そして、ダドリーの腋わきの下からさっと身を引いた。間かん一いっ髪ぱつ。ダドリーはその場で一いっ瞬しゅんぐらりとした。顔が青ざめている……そして、口を開け、玄関マット一杯に吐はいた。
「ダドちゃん ダドちゃん、どうしたの バーノン バーノン」
バーノンおじさんが、居い間まからドタバタと出てきた。興こう奮ふんしたときの常で、セイウチ口ひげをあっちへゆらゆらこっちへゆらゆらさせながら、おじさんはペチュニアおばさんを助けに急いだ。おばさんは反へ吐どの海に足を踏ふみ入れないようにしながら、ぐらぐらしているダドリーをなんとかして玄げん関かんに上げようとしていた。
「バーノン、この子、病気だわ」
「坊主ぼうず、どうした 何があった ポルキスの奥さんが、夕食に異物いぶつでも食わせたのか」
「泥だらけじゃないの。坊や、どうしたの 地面に寝転んでたの」
「待てよ――チンピラにやられたんじゃあるまいな え 坊主」
ペチュニアおばさんが悲鳴ひめいを上げた。
「バーノン、警察に電話よ 警察を呼んで ダドちゃん。かわいこちゃん。ママにお話して チンピラに何をされたの」
てんやわんやの中で、誰もハリーに気づかないようだった。そのほうが好こう都つ合ごうだ。ハリーはバーノンおじさんが戸をバタンと閉める直前に家の中に滑すべり込こんだ。ダーズリー一家がキッチンに向かって騒そう々ぞうしく前進している間、ハリーは慎しん重ちょうに、こっそりと階段へと向かった。