ハリーの部屋は、たしかに家の中のどこよりずっと散らかっていた。最低の気分で、四日間も閉じこもっていたので、後あと片かたづけなどする気にもなれなかったのだ。本は、ほとんど全部床に散らばっていた。気を紛まぎらそうと次々引っ張り出しては放り出していたのだ。ヘドウィグの鳥とり籠かごは掃除そうじしなかったので悪あく臭しゅうを放はなちはじめていた。トランクは開けっぱなしで、マグルの服やら魔法使いのローブやらがごちゃ混ぜになり、周りの床にはみ出していた。
ハリーは本を拾ひろい、急いでトランクに投げ込みはじめた。トンクスは開けっ放しの洋よう箪だん笥すの前で立ち止まり、扉とびらの内側の鏡かがみに映うつった自分の姿を矯ためつ眇すがめつ眺ながめていた。
「ねえ、わたし、紫むらさきが似に合あわないわね」つんつん突つっ立った髪かみをひと房ふさ引っ張りながら、トンクスが物もの想おもわしげに言った。「やつれて見えると思わない」
「あー――」手にした「イギリスとアイルランドのクィディッチ・チーム」の本の上から、ハリーはトンクスを見た。
「うん、そう見えるわ」トンクスはこれで決まりとばかり言い放つと、何かを思い出すのに躍起やっきになっているかのように、目をぎゅっとつぶって顔をしかめた。すると、次の瞬しゅん間かんトンクスの髪かみは、風船ガムのピンク色に変わった。
「どうやったの」ハリーは呆気あっけに取られて、再び目を開けたトンクスを見た。
「わたし、『七しち変化へんげ』なの」
鏡に映った姿を眺め、首を回して前後左右から髪が見えるようにしながらトンクスが答えた。
「つまり、外がい見けんを好きなように変えられるのよ」
鏡に映った自分の背後のハリーが、怪訝けげんそうな表情をしているのを見て、トンクスが説明を加えた。
「生まれつきなの。闇やみ祓ばらいの訓練で、ぜんぜん勉強しないでも『変へん装そう・隠いん遁とん術じゅつ』は最高点を取ったの。あれはよかったわねえ」
「闇やみ祓ばらいなんですか」ハリーは感心した。闇の魔法使いを捕とらえる仕事は、ホグワーツ卒業後の進路しんろとして、ハリーが考えたことのある唯ゆい一いつの職業だった。