「よし」トンクスとハリーが入ってくるのを見て、ルーピンが言った。「あと約一分だと思う。庭に出て待っていたほうがいいかもしれないな。ハリー、おじさんとおばさんに、心配しないように手紙を残したから――」
「心配しないよ」ハリーが言った。
「――君は安全だと――」
「みんながっかりするだけだよ」
「――そして、君がまた来年の夏休みに帰ってくるって」
「そうしなきゃいけない」
ルーピンは微笑ほほえんだが、何も答えなかった。
「おい、こっちへ来るんだ」ムーディが杖でハリーを招まねきながら、乱らん暴ぼうに言った。「おまえに『目くらまし』をかけないといかん」
「何をしなきゃって」ハリーが心配そうに聞いた。
「『目くらまし術じゅつ』だ」ムーディが杖を上げた。「ルーピンが、おまえには透とう明めいマントがあると言っておったが、飛ぶときはマントが脱ぬげてしまうだろう。こっちのほうがうまく隠してくれる。それ――」
ムーディがハリーの頭のてっぺんをコツンと叩たたくと、ハリーはまるでムーディがそこで卵たまごを割ったような奇き妙みょうな感覚を覚えた。杖で触ふれたところから、体全体に冷たいものがトロトロと流れていくようだった。
「うまいわ、マッド‐アイ」トンクスがハリーの腹のあたりを見つめながら感心した。
ハリーは自分の体を見下ろした。いや、体だったところを見下ろした。もうとても自分の体には見えなかった。透とう明めいになったわけではない。ただ、自分の後ろにあるユニット・キッチンと同じ色、同じ質しつ感かんになっていた。人間カメレオンになったようだ。
「行こう」ムーディは裏うら庭にわへのドアの鍵かぎを杖つえで開けた。全員が、バーノンおじさんが見事に手入れした芝生しばふに出た。