ハリーは地面を強く蹴けった。冷たい夜風が髪かみをなぶった。プリベット通りのこぎれいな四角い庭々がどんどん遠退とおのき、たちまち縮んで暗い緑と黒のまだら模様もようになった。魔法省の尋じん問もんなど、まるで風が吹き飛ばしてしまったかのように跡あと形かたもなく頭から吹っ飛んだ。ハリーは、うれしさに心臓が爆ばく発はつしそうだった。また飛んでいるんだ。夏中胸に思い描いていたように、プリベット通りを離はなれて飛んでいるんだ。家に帰るんだ……このわずかな瞬しゅん間かん、この輝かがやかしい瞬間、ハリーの抱えていた問題は無になり、この広大な星空の中では取るに足らないものになっていた。
「左に切れ。左に切れ。マグルが見上げておる」
ハリーの背後からムーディが叫さけんだ。トンクスが左に急きゅう旋せん回かいし、ハリーも続いた。トンクスの箒ほうきの下で、トランクが大きく揺ゆれるのが見えた。
「もっと高度を上げねば……四百メートルほど上げろ」
上昇するときの冷気れいきで、ハリーは目が潤うるんだ。眼下がんかにはもう何も見えない。車のヘッドライトや街がい灯とうの明かりが、針の先で突つついたように点々と見えるだけだった。その小さな点のうちの二つが、バーノンおじさんの車のものかもしれない……ダーズリー一家がありもしない芝生しばふコンテストに怒り狂って、いまごろ空っぽの家に向かう途と中ちゅうだろう……そう思うとハリーは大声で笑った。しかしその声は、他の音に呑のみ込こまれてしまった――みんなのローブがはためく音、トランクと鳥とり籠かごを括くくりつけた器具の軋きしむ音、空中を疾しっ走そうする耳元でシューッと風を切る音。この一ヵ月、ハリーはこんなに生きていると感じたことはなかった。こんなに幸せだったことはなかった。