「掛かけなさい、ハリー」シリウスが言った。「マンダンガスには会ったことがあるね」
ハリーがボロ布きれの山だと思っていたものが、クウーッと長いいびきをかいたと思うと、がばっと目を覚ました。
「だンか、おンの名、呼んだか」マンダンガスが眠そうにボソボソ言った。「おれは、シリウスンさン成する……」マンダンガスは投とう票ひょうでもするように、汚らしい手を挙あげた。血走った垂たれ目はどろんとして焦しょう点てんが合っていない。
ジニーがクスクス笑った。
「会議は終ってるんだ、ダング」シリウスが言った。周りのみんなもテーブルに着いていた。
「ハリーが到とう着ちゃくしたんだよ」
「はぁ」マンダンガスは赤茶あかちゃけたくしゃくしゃの髪かみの毛を透すかして、ハリーを惨みじめっぽく見た。「ほー。着いたンか。ああ……元気か、アリー」
「うん」ハリーが答えた。
マンダンガスは、ハリーを見つめたままそわそわとポケットをまさぐり、煤すすけたパイプを引っ張り出した。パイプを口に突っ込み、杖で火を点つけ、深く吸い込んだ。緑がかった煙がもくもくと立ち昇のぼり、たちまちマンダンガスの顔に煙幕えんまくを張った。
「あんたにゃ、あやまンにゃならん」臭い煙の中から、ブツブツ言う声が聞こえた。
「マンダンガス、何度言ったらわかるの」ウィーズリーおばさんが向こうのほうから注意した。
「お願いだから、厨ちゅう房ぼうではそんなもの吸わないで。とくにこれから食事っていうときに」
「あー」マンダンガスが言った。「うン。モリー、すまン」
マンダンガスがポケットにパイプをしまうと、もくもくは消えた。しかし、靴下くつしたの焦こげるような刺し激げき臭しゅうが漂ただよっていた。
「それに、真夜中にならないうちに夕食を食べたいなら、手を貸かしてちょうだいな」ウィーズリーおばさんがみんなに声をかけた。「あら、ハリー、あなたはじっとしてていいのよ。長旅だったもの」
「モリー、何しようか」トンクスが、なんでもするわとばかり、弾はずむように進み出た。
ウィーズリーおばさんが、心配そうな顔で戸惑とまどった。
「えーと――結構けっこうよ、トンクス。あなたも休んでらっしゃい。今日は十分働いたし」
「ううん。わたし、手伝いたいの」トンクスが明るく言い、ジニーがナイフやフォークを取り出している食器棚のほうに急いで行こうとして、途と中ちゅうの椅子を蹴け飛とばして倒した。