まもなく、ウィーズリーおじさんの指し揮き下かで、大きな包ほう丁ちょうが何丁も勝手に肉や野菜を刻きざみはじめた。おばさんは火に掛かけた大おお鍋なべを掻かき回し、他のみんなは皿や追加のゴブレット、貯ちょ蔵ぞう室しつからの食べ物を運んでいた。ハリーはシリウス、マンダンガスとテーブルに取り残され、マンダンガスは相変わらず申し訳なさそうに目をしょぼつかせていた。
「フィギーばあさんに、あのあと会ったか」マンダンガスが聞いた。
「ううん」ハリーが答えた。「誰にも会ってない」
「なあ、おれ、持ち場をあはなれたンは」縋すがるような口調で、マンダンガスは身を乗り出した。
「商売のチャンスがあったンで――」
ハリーは、膝ひざを何かで擦こすられたような気がしてびっくりしたが、何のことはない、ハーマイオニーのペットで、オレンジ色の猫、ガニ股またのクルックシャンクスだった。甘え声を出してハリーの足の周りをひと巡めぐりし、それからシリウスの膝に跳とび乗って丸くなった。シリウスは無意識に猫の耳の後ろをカリカリ掻かきながら、相変わらず固い表情でハリーのほうを見た。
「夏休みは、楽しかったか」
「ううん、ひどかった」ハリーが答えた。
シリウスの顔に、初めてニヤッと笑えみが走った。
「わたしに言わせれば、君がなんで文句を言うのかわからないね」
「えっ」ハリーは耳を疑った。
「わたしなら、吸きゅう魂こん鬼きに襲おそわれるのは歓迎かんげいだったろう。命を賭かけた死闘しとうでもすれば、この退屈たいくつさも見事に破られたろうに。君はひどい目に遭あったと思っているだろうが、少なくとも外に出て歩き回ることができた。手足を伸ばせたし、喧嘩けんかも戦いもやった……わたしはこの一ヵ月、ここに缶詰かんづめだ」
「どうして」ハリーは顔をしかめた。
「魔法省がまだわたしを追っているからだ。それに、ヴォルデモートはもうわたしが『動物もどき』だと知っているはずだ。ワームテールが話してしまったろうから。だからわたしのせっかくの変装へんそうも役に立たない。不ふ死し鳥ちょうの騎き士し団だんのためにわたしができることはほとんどない……少なくともダンブルドアはそう思っている」
ダンブルドアの名前を言うとき、シリウスの声がわずかに曇った。それがハリーに、シリウスもダンブルドア校長に不満があることを物語っていた。名な付づけ親おやのシリウスに対して、ハリーは急に熱い気持が込み上げてきた。