ロン、ハーマイオニー、フレッド、ジョージの四人の頭が、シリウスとウィーズリー夫人の間を、テニスのラリーを見るように往復した。ジニーは、散らばったバタービールのコルク栓せんの山の中に膝ひざをつき、口を微かすかに開けて二人のやり取りを見つめていた。ルーピンの目は、シリウスに釘くぎづけになっていた。
「わたしは、ハリーが知る必要があること以外に、この子に話してやるつもりはないよ、モリー」シリウスが言った。「しかし、ハリーがヴォルデモートの復活を目もく撃げきした者である以上ヴォルデモートの名が、またしてもテーブル中を一斉いっせいに身震みぶるいさせた、ハリーは大方おおかたの人間より以上に――」
「この子は不ふ死し鳥ちょうの騎き士し団だんのメンバーではありません」ウィーズリーおばさんが言った。
「この子はまだ十五歳です。それに――」
「それに、ハリーは騎士団の大多数のメンバーに匹敵ひってきするほどの、いや、何人かを凌しのぐほどのことをやり遂とげてきた」
「誰も、この子がやり遂げたことを否定ひていしやしません」ウィーズリーおばさんの声がいちだんと高くなり、拳こぶしが椅子の肘掛ひじかけで震ふるえていた。「でも、この子はまだ――」
「ハリーは子供じゃない」シリウスがイライラと言った。
「大人おとなでもありませんわ」ウィーズリーおばさんは、頬ほおを紅こう潮ちょうさせていた。「シリウス、この子はジェームズじゃないのよ」
「お言葉だが、モリー、わたしは、この子が誰か、はっきりわかっているつもりだ」シリウスが冷たく言った。
「私にはそう思えないわ」ウィーズリーおばさんが言った。「ときどき、あなたがハリーのことを話すとき、まるで親友が戻ってきたかのような口ぶりだわ」
「そのどこが悪いの」ハリーが言った。
「どこが悪いかと言うとね、ハリー、あなたはお父さんとは違うからですよ。どんなにお父さんにそっくりでも」ウィーズリーおばさんが、抉えぐるような目でシリウスを睨にらみながら言った。
「あなたはまだ学生です。あなたに責任を持つべき大人が、それを忘れてはいけないわ」
「わたしが無責任な名な付づけ親おやだという意味ですかね」シリウスが、声を荒あららげて問い質ただした。
「あなたは向こう見ずな行動を取ることもあるという意味ですよ、シリウス。だからこそ、ダンブルドアがあなたに、家の中にいるようにと何度もおっしゃるんです。それに――」
「ダンブルドアがわたしに指図さしずすることは、よろしければ、この際さい別にしておいてもらいましょう」シリウスが大声を出した。
「アーサー」おばさんは歯痒はがゆそうにウィーズリーおじさんを振り返った。「アーサー、なんとか言ってくださいな」
ウィーズリーおじさんはすぐには答えなかった。メガネをはずし、妻のほうを見ずに、ローブでゆっくりとメガネを拭ふいた。そのメガネを慎しん重ちょうに鼻に載のせ直してから、初めておじさんが口を開いた。
「モリー、ダンブルドアは立場が変化したことをご存知ぞんじだ。いまハリーは、本部にいるわけだし、ある程度ていどは情報を与えるべきだと認めていらっしゃる」
「そうですわ。でも、それと、ハリーに何でも好きなことを聞くようにと促うながすのとは、全然別です」