「私個人としては」シリウスから目を離はなしたルーピンが、静かに言った。ウィーズリーおばさんは、やっと味方ができそうだと、急いでルーピンを振り返った。「ハリーは事実を知っておいたほうがよいと思うね――何もかもというわけじゃないよ、モリー。でも、全体的な状況を、私たちから話したほうがよいと思う――歪わい曲きょくされた話を、誰か……ほかの者から聞かされるよりは」
ルーピンの表情は穏おだやかだったが、ウィーズリーおばさんの追放ついほうを免まぬがれた「伸のび耳みみ」があることを、少なくともルーピンは知っていると、ハリーははっきりそう思った。
「そう」ウィーズリーおばさんは息を深く吸すい込こみ、支し持じを求めるようにテーブルをぐるりと見回したが、誰もいなかった。「そう……どうやら私は却きゃっ下かされるようね。これだけは言わせていただくわ。ダンブルドアがハリーにあまり多くを知ってほしくないとおっしゃるからには、ダンブルドアなりの理由がおありのはず。それに、ハリーにとって何が一番よいことかを考えている者として――」
「ハリーはあなたの息子じゃない」シリウスが静かに言った。
「息子も同然どうぜんです」ウィーズリーおばさんが激はげしい口調で言った。「ほかに誰がいるって言うの」
「わたしがいる」
「そうね」ウィーズリーおばさんの口元くちもとがくいっと上がった。「ただし、あなたがアズカバンに閉じ込められていた間は、この子の面倒を見るのが少し難しかったのじゃありません」
シリウスは椅子から立ち上がりかけた。
「モリー、このテーブルに着いている者で、ハリーのことを気遣きづかっているのは、君だけじゃない」ルーピンは厳きびしい口調で言った。「シリウス、座るんだ」
ウィーズリーおばさんの下した唇くちびるが震ふるえていた。シリウスは蒼そう白はくな顔のまま、ゆっくりと椅子に腰掛こしかけた。
「ハリーも、このことで意見を言うのを許されるべきだろう」ルーピンが言葉を続けた。「もう自分で判断できる年齢ねんれいだ」
「僕、知りたい。何が起こっているのか」ハリーは即座そくざに答えた。
ハリーはウィーズリーおばさんのほうを見なかった。おばさんがハリーを息子同然どうぜんだと言ったことに胸を打たれていた。しかし、おばさんに子供扱あつかいされることに我慢がまんできなかったのも確かだった。シリウスの言うとおりだ。僕は子供じゃない。