「扉とびらのベルは鳴らすなと、あれほど言ってるのに」
シリウスは憤慨ふんがいして、急いで部屋から出て行った。シリウスが嵐あらしのように階段を下りていき、ブラック夫人の金切かなきり声ごえが、たちまち家中に響ひびき渡るのが聞こえてきた。
「不ふ名めい誉よな汚点おてん、穢けがらわしい雑種ざっしゅ、血を裏切うらぎる者、汚けがれた子らめ……」
「ハリー、扉とびらを閉めてちょうだい」ウィーズリーおばさんが言った。
ハリーは、変に思われないぎりぎりの線で、できるだけゆっくり客きゃく間まの扉を閉めた。下で何が起こっているか聞きたかったのだ。シリウスは母親の肖しょう像ぞう画がを、なんとかカーテンで覆おおったようだ。肖像画が叫ぶのをやめた。シリウスがホールを歩く足音が聞こえ、玄げん関かんの鎖くさりがはずれるカチャカチャという音、そして聞き覚えのあるキングズリー・シャックルボルトの深い声が聞こえた。「ヘスチアが、いま私と代わってくれたんだ。だからムーディのマントはいまヘスチアが持っている。ダンブルドアに報告ほうこくを残しておこうと思って……」
頭の後ろにウィーズリーおばさんの視線しせんを感じて、ハリーはしかたなく客きゃく間まの扉とびらを閉め、ドクシー退たい治じ部ぶ隊たいに戻った。
ウィーズリーおばさんは、ソファの上に開いて置いてある「ギルデロイ・ロックハートのガイドブック――一般家庭の害がい虫ちゅう」を覗のぞき込こみ、ドクシーに関するページを確かめていた。
「さあ、みんな、気をつけるんですよ。ドクシーは噛かみつくし、歯に毒があるの。毒消しはここに一本用意してあるけど、できれば誰も使わなくてすむようにしたいわ」
おばさんは体を起こし、カーテンの真正面で身構みがまえ、みんなに前に出るように合図した。
「私が合図したら、すぐに噴射ふんしゃしてね」おばさんが言った。「ドクシーはこっちをめがけて飛んでくるでしょう。でも、たっぷり一回シューッとやれば麻ま痺ひするって、スプレー容器ようきにそう書いてあるわ。動けなくなったところを、このバケツに投げ入れてちょうだい」
おばさんは、みんながずらりと並んだ噴ふん射しゃ線せんから慎しん重ちょうに一歩踏ふみ出し、自分のスプレー瓶びんを高く掲かかげた。
「用意――噴射」