しもべ妖よう精せいが部屋に入り込こんできた。
腹に腰布こしぬののように巻いた汚らしいボロ以外は、素すっ裸ぱだかだった。相当の年寄りに見えた。皮ひ膚ふは体の数倍すうばいあるかのようにだぶつき、しもべ妖精に共通の禿はげ頭あたまだが、コウモリのような大耳から白髪はくはつがぼうぼうと生はえていた。どんよりとした灰色の目は血走り、肉づきのいい大きな鼻は豚ぶたのようだ。
しもべ妖精は、ハリーにもほかの誰にもまったく関心かんしんを示さない。まるで誰も見えないかのように、背中を丸め、ゆっくり、執拗しつように、部屋の向こう端まで歩きながら、ひっきりなしに、食用ガエルのようなかすれた太い声で何かブツブツ呟つぶやいていた。
「……ドブ臭い、おまけに罪人ざいにんだ。あの女も同類どうるいだ。いやらしい血を裏切うらぎる者。そのガキどもが奥様おくさまのお屋敷を荒らして。ああ、おかわいそうな奥様。お屋敷にカスどもが入り込んだことをお知りになったら、このクリーチャーめになんと仰おおせられることか。おお、なんたる恥ち辱じょく。穢けがれた血、狼おおかみ人にん間げん、裏切り者、泥棒どろぼうめら。哀あわれなこのクリーチャーは、どうすればいいのだろう……」
「おーい、クリーチャー」フレッドが扉をピシャリと閉めながら、大声で呼びかけた。
屋敷しもべ妖精はぱたりと止まり、ブツブツをやめ、大げさな、しかし嘘臭うそくさい様子で驚おどろいてみせた。
「クリーチャーめは、お若い旦那だんなさまに気づきませんで」そう言うと、クリーチャーは後ろを向き、フレッドにお辞じ儀ぎした。俯うつむいて絨じゅう毯たんを見たまま、はっきりと聞き取れる声で、クリーチャーはそのあとを続けた。「血を裏切る者の、いやらしいガキめ」
「え」ジョージが聞いた。「最後になんて言ったかわからなかったけど」
「クリーチャーめは何も申しません」しもべ妖精が、こんどはジョージにお辞儀しながら言った。そして、低い声ではっきりつけ加えた。「それに、その双子ふたごの片かたわれ。異い常じょうな野や獣じゅうめ。こいつら」