クリーチャーはご主人様直々じきじきの命令にはとても逆さからえないようだった。にもかかわらず、のろのろと足を引きずるようにしてシリウスのそばを通り過ぎるときに、ありったけの嫌けん悪お感かんを込めてシリウスを見た。そして、部屋を出るまでブツブツ言い続けた。
「――アズカバン帰りがクリーチャーに命令する。ああ、おかわいそうな奥様。いまのお屋敷の様子をご覧になったら、なんと仰せになることか。カスどもが住み、奥様のお宝を捨てて。奥様はこんなやつは自分の息子ではないと仰せられた。なのに、戻ってきた。その上、人殺ひとごろしだとみなが言う――」
「ブツブツ言い続けろ。本当に人殺しになってやるぞ」しもべ妖精を締しめ出し、バタンと扉とびらを閉めながら、シリウスがイライラと言った。
「シリウス、クリーチャーは気が変なのよ」ハーマイオニーが弁護べんごするように言った。「私たちには聞こえないと思っているのよ」
「あいつは長いこと独ひとりでいすぎた」シリウスが言った。「母の肖しょう像ぞう画がからの狂った命令を受け、独ひとり言ごとを言って。しかし、あいつは前からずっと、腐くさったいやな――」
「自由にしてあげさえすれば」ハーマイオニーが願いを込めて言った。「もしかしたら――」
「自由にはできない。騎き士し団だんのことを知りすぎている」シリウスはにべもなく言った。「それに、いずれにせよショック死してしまうだろう。君からあいつに、この家を出てはどうかと言ってみるがいい。あいつがそれをどう受け止めるか」
シリウスが壁のほうに歩いて行った。そこには、クリーチャーが守ろうとしていたタペストリーが壁かべ一いっ杯ぱいに掛かかっていた。ハリーも他の者もシリウスについて行った。