シリウスは杖つえでタペストリーを撃うつまねをして、自じ嘲ちょう的てきに笑った。しかし、ハリーは笑わなかった。アンドロメダの焼け焦げの右にある名前に気を取られて、じっと見つめていたのだ。金の刺し繍しゅうの二に重じゅう線せんがナルシッサ・ブラックとルシウス・マルフォイを結び、その二人の名前から下に金の縦線たてせんが一本、ドラコという名前に繋つながっていた。
「マルフォイ家と親戚しんせきなんだ」
「純血家族はみんな姻いん戚せき関かん係けいだ」シリウスが言った。「娘も息子も純血としか結婚させないというのなら、あまり選択せんたくの余よ地ちはない。純血種はほとんど残っていないのだから。モリーも結婚によってわたしと従い姉と弟こ関係かんけいになった。アーサーは、わたしの又また従兄いとこの子供か何かに当たるかな。しかし、ウィーズリー家をこの図で探すのはむだだ――血を裏切うらぎる者ばかりを輩はい出しゅつした家族がいるとすれば、それがウィーズリー家だからな」
しかしハリーは、こんどはアンドロメダの焼け焦げの左の名前を見ていた。ベラトリックス・ブラック。二重線で、ロドルファス・レストレンジと結ばれている。
「レストレンジ……」
ハリーが読み上げた。この名前は、何かハリーの記憶きおくを刺激しげきする。どこかで聞いた名だ。しかし、どこだったか、とっさには思い出せない。ただ、胃の腑ふに奇き妙みょうなぞっとするような感かん触しょくが蠢うごめいた。
「この二人はアズカバンにいる」シリウスはそれしか言わなかった。
ハリーはもっと知りたそうにシリウスを見た。
「ベラトリックスと夫のロドルファスは、バーティ・クラウチの息子と一いっ緒しょに入ってきた」シリウスは、相変わらずぶっきらぼうな声だ。「ロドルファスの弟のラバスタンも一緒だった」
そこでハリーは思い出した。ベラトリックス・レストレンジを見たのは、ダンブルドアの「憂うれいの篩ふるい」の中だった。想おもいや記憶きおくを蓄たくわえておける、あの不ふ思し議ぎな道具の中だ。背の高い黒くろ髪かみの女性で、厚ぼったい瞼まぶたの半眼はんがんの魔女だった。裁判さいばんの終りに立ち上がり、ヴォルデモート卿きょうへの変わらぬ恭きょう順じゅんを誓ちかい、ヴォルデモートが失しっ脚きゃくしたあとも卿を探し求めたことを誇ほこり、その忠ちゅう誠せいぶりを褒ほめてもらえる日が来ると宣せん言げんした魔女だ。