「いままで一度も言わなかったね。この魔女が――」
「わたしの従姉だったらどうだって言うのかね」シリウスがぴしゃりと言った。「わたしに言わせれば、ここに載のっている連中はわたしの家族ではない。この魔女は、絶対に家族ではない。君ぐらいの歳としのときから、この女には一度も会っていない。アズカバンでちらりと見かけたことを勘かん定じょうに入れなければだが。こんな魔女を親戚しんせきに持ったことを、わたしが誇ほこりにするとでも思うのか」
「ごめんなさい」ハリーは急いで謝あやまった。「そんなつもりじゃ――僕、ただ驚おどろいたんだ。それだけ――」
「気にするな。謝ることはない」
シリウスが口ごもった。シリウスは両手をポケットに深く突つっ込こみ、タペストリーから顔を背そむけた。
「ここに戻って来たくなかった」客きゃく間まを見渡しながら、シリウスが言った。「またこの屋敷やしきに閉じ込められるとは思わなかった」
ハリーにはよくわかった。自分が大きくなって、プリベット通りから完全に解放かいほうされたと思ったとき、またあの四番地に戻って住むとしたら、どんな思いがするかわかっていた。
「もちろん、本部としては理り想そう的てきだ」シリウスが言った。「父がここに住んでいたときに、魔法使いが知るかぎりのあらゆる安あん全ぜん対たい策さくを、この屋敷に施ほどこした。位い置ち探たん知ちは不可能だ。だから、マグルは絶対にここを訪れたりはしない――もっともそうしたいとは思わないだろうが――それに、いまはダンブルドアが追加の保ほ護ご策さくを講こうじている。ここより安全な屋敷はどこにもない。ダンブルドアが、ほら、『秘ひ密みつの守人もりびと』だ――ダンブルドア自身が誰かにこの場所を教えないかぎり、誰も本部を見つけることはできない――ムーディが昨晩君に見せたメモだが、あれはダンブルドアからだ……」シリウスは、犬が吼ほえるような声で短く笑った。「わたしの両親が、いまこの屋敷がどんなふうに使われているかを知ったら……まあ、母の肖しょう像ぞう画がで、君も少しはわかるだろうがね……」
シリウスは一いっ瞬しゅん顔をしかめ、それからため息をついた。
「ときどきちょっと外に出て、何か役に立つことができるなら、わたしも気にしないんだが。ダンブルドアに、君の尋じん問もんについて行くことはできないかと聞いてみた――もちろん、スナッフルズとしてだが――君を精せい神しん的てきに励はげましたいんだが、どう思うかね」