ダイヤルが滑なめらかに回転し終ると、おじさんが手にした受話器からではなく、電話ボックスの中から、落ち着きはらった女性の声が流れてきた。まるで二人のすぐそばに姿の見えない女性が立っているように、大きくはっきりと聞こえた。
「魔法省へようこそ。お名前とご用件ようけんをおっしゃってください」
「えー……」
おじさんは、受話器に向かって話すべきかどうか迷ったあげく、受話器の口の部分を耳に当てることで妥だ協きょうした。
「マグル製せい品ひん不ふ正せい使し用よう取とり締しまり局きょくのアーサー・ウィーズリーです。懲ちょう戒かい尋じん問もんに出しゅっ廷ていするハリー・ポッターにつき添そってきました……」
「ありがとうございます」落ち着きはらった女性の声が言った。「外がい来らいの方かたはバッジをお取りになり、ローブの胸にお着けください」
カチャ、カタカタと音がして、普通なら釣つり銭せんが出てくるコイン返へん却きゃく口の受け皿に、何かが滑すべり出てきた。拾ひろい上げると銀色の四角いバッジで、 ハリー・ポッター 懲戒訊問 と書いてある。ハリーはシャツの胸にバッジを留とめた。また女性の声がした。
「魔法省への外来の方は、杖つえを登録とうろくいたしますので、守しゅ衛えい室しつにてセキュリティ・チェックを受けてください。守衛室はアトリウムの一番奥にございます」
電話ボックスの床がガタガタ揺ゆれたかと思うと、ゆっくりと地面に潜もぐりはじめた。ボックスのガラス窓越まどごしに地面がだんだん上昇し、ついに頭上まで真っ暗になるのを、ハリーははらはらしながら見つめていた。何も見えなくなった。電話ボックスが潜って行くガリガリ言う鈍にぶい音以外は何も聞こえない。一分も経たったろうか、ハリーにはもっと長い時間に感じられたが、一ひと筋すじの金色の光が射さし込こみ、足下あしもとを照らした。光はだんだん広がり、ハリーの体を照らし、ついに、パッと顔を照らした。ハリーは涙が出そうになり、目をパチパチさせた。
「魔法省です。本日はご来らい省しょうありがとうございます」女性の声が言った。
電話ボックスの戸がさっと開き、ウィーズリーおじさんが外に出た。続いて外に出たハリーは、口があんぐり開いてしまった。