そこは長い豪華ごうかなホールの一番端で、黒っぽい木の床はピカピカに磨みがき上げられていた。ピーコックブルーの天井には金色こんじきに輝かがやく記号が象嵌ぞうがんされ、その記号が絶たえ間まなく動き変化して、まるで空に掛かかった巨大な掲けい示じ板ばんのようだった。両側の壁かべはピカピカの黒い木の腰板こしいたで覆おおわれ、そこに金張きんばりの暖炉だんろがいくつも設置せっちされていた。左側の暖炉からは、数秒ごとに魔法使いや魔女が柔らかいヒューッという音とともに現れ、右側には、暖炉ごとに出発を待つ短い列ができていた。
ホールの中ほどに噴水ふんすいがあった。丸い水すい盆ぼんの真ん中に、実物大より大きい黄金の立像りつぞうがいくつも立っている。一番背が高いのは、高貴こうきな顔つきの魔法使いで、天を突つくように杖つえを掲かかげている。その周りを囲むように、美しい魔女、ケンタウルス、小こ鬼おに、屋敷やしきしもべ妖よう精せいの像がそれぞれ一体ずつ立っていた。ケンタウルス以下三体の像は、魔法使いと魔女を崇あがめるように見上げている。二本の杖の先、ケンタウルスの矢尻やじり、小鬼の帽子ぼうしの先、そして屋敷しもべ妖精の両耳の先から、キラキラと噴水が上がっている。それがパチパチと水面を打つ音や、「姿すがた現あらわし」するポン、バシッという音、何百人もの魔法使いや魔女の足音などが混まじり合って聞こえてくる。魔法使いたちの多くは、早朝のむっつりした表情で、ホールの一番奥に立ち並ぶ黄金のゲートに向かって足早に歩いていた。
「こっちだ」ウィーズリーおじさんが言った。
二人は人波ひとなみに混じり、魔法省で働く人たちの間を縫ぬうように進んだ。羊よう皮ひ紙しの山をぐらぐらさせながら運んでいる役人もいれば、くたびれたブリーフケースを抱えている者や、歩きながら「日にっ刊かん予よ言げん者しゃ新しん聞ぶん」を読んでいる魔法使いもいる。噴水のそばを通るとき、水底みなそこからシックル銀貨ぎんかやクヌート銅貨どうかが光るのが見えた。噴水脇わきの小さな立て札に、滲にじんで薄うすくなった字でこう書いてあった。
「魔ま法ほう族ぞくの和の泉いずみ」からの収しゅう益えきは、
聖せいマンゴ魔ま法ほう疾しっ患かん傷しょう害がい病びょう院いんに寄き付ふされます
もしホグワーツを退学にならなかったら、十ガリオン入れよう。ハリーはすがる思いでそんなことを考えている自分に気づいた。