「あそこの法廷ほうていはもう何年も使っていないのに」おじさんは憤慨ふんがいした。「なぜあそこでやるのか、わけがわからん――もしや――いや、まさか――」
そのとき、小太こぶとりの魔女が、煙を上げているゴブレットを手にして乗り込んできたので、ウィーズリーおじさんはそれ以上説明しなかった。
「アトリウム」落ち着きはらった女性の声が言った。金の格子こうしがスルスルと開いた。ハリーは遠くに噴水ふんすいと黄金の立りつ像ぞう群ぐんをちらりと見た。小太りの魔女が降おり、土つち気け色いろの顔をした陰気いんきな魔法使いが乗り込んできた。
「おはよう、アーサー」エレベーターが下りはじめたとき、その魔法使いが葬式そうしきのような声で挨あい拶さつした。「ここらあたりではめったに会わないが」
「急用でね、ボード」焦じれったそうに体を上下にぴょこぴょこさせ、ハリーを心配そうな目で見ながら、おじさんが答えた。
「ああ、そうかね」ボードは瞬まばたきもせずハリーを観察かんさつしていた。「なるほど」
ハリーはボードのことなど、とても気にするどころではなかったが、それにしても無ぶ遠えん慮りょに見つめられて気分がよくなるわけはなかった。
「神しん秘ぴ部ぶでございます」落ち着きはらった女性の声が言った。それだけしか言わなかった。
「早く、ハリー」
エレベーターの扉とびらがガラガラと開いたとたんに、おじさんが急せき立てた。二人は廊下ろうかを疾走しっそうした。そこは、上のどの階とも違っていた。壁かべは剥むき出しで、廊下の突つき当たりにある真っ黒な扉以外は、窓も扉もない。ハリーはその扉を入るのかと思った。ところがおじさんは、ハリーの腕をつかみ、左のほうに引っ張っていった。そこにぽっかり入口が開あき、下への階段に続いていた。
「下だ、下」ウィーズリーおじさんは、階段を二段ずつ駆かけ下りながら、喘あえぎ喘ぎ言った。
「こんな下まではエレベーターも来ない……いったいどうしてこんなところでやるのか、私には……」
階段の下まで来ると、また別の廊下を走った。そこは、ごつごつした石壁いしかべに松明たいまつが掛かかり、ホグワーツのスネイプの地ち下か牢ろう教きょう室しつに行く廊下とそっくりだった。どの扉も重そうな木製で、鉄の閂かんぬきと鍵穴かぎあながついていた。