ハリーは思わず息を呑のんだ。この広い地ち下か牢ろうは、不ぶ気き味みなほど見覚えがある。以前に見たことがあるどころではない。ここに来たことがある。ダンブルドアの「憂うれいの篩ふるい」の中で、ハリーはこの場所に来た。ここで、レストレンジたちがアズカバン監獄かんごくでの終しゅう身しん刑けいを言い渡されるのを目もく撃げきした。
黒ずんだ石壁いしかべを、松明たいまつがぼんやり照らしている。ハリーの両側のベンチには誰も座っていなかったが、正面の一際ひときわ高いベンチに、大勢の影のような姿があった。みんな低い声で話していたが、ハリーの背後で重い扉とびらがバタンと閉まると、不吉ふきつな静けさが漲みなぎった。
法廷ほうていの向こうから、男性の冷たい声が鳴り響ひびいた。
「遅刻ちこくだ」
「すみません」ハリーは緊きん張ちょうした。「僕――僕、時間が変更へんこうになったことを知りませんでした」
「ウィゼンガモットのせいではない」声が言った。「今朝、君のところへふくろうが送られている。着席せよ」
ハリーは部屋の真ん中に置かれた椅子に視線しせんを移した。肘掛ひじかけに鎖くさりがびっしり巻きついている。椅子に座る者を、この鎖が生き物のように縛しばり上げるのをハリーは前に見ている。石の床を歩くハリーの足音が、大きく響き渡った。恐る恐る椅子の端に腰掛こしかけると、鎖がジャラジャラと脅おどすように鳴ったが、ハリーを縛りはしなかった。吐はきたいような気分で、ハリーは前のベンチに座る影たちを見上げた。
五十人もいるだろうか。ハリーの見える範囲はんいでは、全員が赤あか紫むらさきのローブを着ている。胸の左側に、複雑ふくざつな銀の飾かざり文字で「W」の印がついている。厳きびしい表情をしている者も、率そっ直ちょくに好こう奇き心しんを顕あらわにしている者も、全員がハリーを見下ろしている。